初滞在から3日後に昭和村へ移住を決める

 翌2015年5月のある週末、須田さんは昭和村を訪問。からむしの繊維を糸にするワークショップに参加しました。昭和村では26年前から、全国から希望者を募集し、栽培から織りまでの研修を1年かけて行う「織姫制度」を実施。これまでに研修を受けたおよそ120人のうち約30人がそのまま定住し、多くの人がからむしに携わっています。

 「からむしの糸作りを教えてくれたのは、村に移り住んだ『織姫』さん。昭和村での暮らしの楽しさを目を輝かせて話すのを聞きながら、『確かにいい場所だけれど、移住はないな~』とそのときは思っていたんです。でも滞在中、会う人会う人が気さくで親切で『こんな場所なら、東京でストレスを抱えて生きるより楽しいのでは』『実際に住まないと、からむしが受け継がれる風土や土地柄を芯から理解することはできない』と考え、3日後には『昭和村に行くしかない!』と」

築45年、床の抜けた物件を即決

 「上司に退職の意思を伝え、翌週末に再び昭和村に行き、ゲストハウスの主人に空き家探しを依頼。7月に築45年の2階建て物件を内覧し、床の抜けた家にもかかわらず、その場で家主に電話をして『借ります』と伝えました」

 7月中旬には退職。村の電気店に改修工事を依頼してトイレを水洗化し、建築店には床材の張り直しや雪囲いの設置、窓の交換などを頼みました。約155万円かかったものの、県からの補助金を利用できたため、実際の出費はその半分で済んだといいます。

 家探しをしてくれたゲストハウスの主人がこの物件について薦めてくれた理由は、雪かきが楽ということ。「昭和村は、冬には1階が雪で埋もれる豪雪地帯。屋根が低いと、地面の積雪と屋根から落ちた雪がつながり、軒が折れる恐れがあるそうです。この家は屋根が高いし、村が除雪してくれる村道に接しているので、玄関前だけ雪かきすればなんとかなるのです」

 こうして初滞在からわずか4カ月後の9月、須田さんは東京のマンションを引き払い、昭和村へ移住しました。移住後の日々やいかに? 後編でお届けします!

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雪国≠寡黙と知った昭和村での移住生活 人生これでいい

取材・文/籏智優子 写真/佐藤正純