学びの場に横たわる「情報の非対称性」に疑問
予備校では、講師の僕が一方的に話して、大勢の生徒たちはそれをただノートに写しているだけです。「教える」と「教わる」が完全に二分化している状況では、教わる側はどうしても受動的になってしまいます。
昔はみんな知識がなかったから、お互いの経験を学び合っていました。やがて人が持つ知識がどんどん増えて、それが教科書のように整理されることによって、「知っている人」と「知らない人」が出てきた。この関係性を「情報の非対称性」と言います。
あることについてすごく詳しい人と全然知らない人がいると、そこにはどうしても上下関係が生まれます。この不健全な状況をなんとかしたいという思いが、僕の中に芽生えました。
そんなふうに教育に関心を持ったのと同じ頃、大学院の研究室には優秀な人たちがたくさんいて、彼らの研究を通してITのすごさも目の当たりにしました。例えば先輩には、後にスマートニュースを創業する鈴木健さんがいました。
彼らは経済産業省所管のIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が行っている、優れたIT人材を発掘する「未踏スーパークリエータ」に軒並み選ばれていました。当時の僕はとてもそんなレベルではありませんでしたが、いつか自分も同じ称号を得たいと思っていて、後に、学習支援クラウド「スクールタクト」の原型となるソフトウエアの開発で応募。2010年度の未踏スーパークリエータに選ばれ、国から委託金を得て本格的な開発に専念することができました。
教育における情報の非対称性の解消に、ITの力が生かせるのではないか。大学院時代にその発想を得て以来、ゆっくりですが目指すものに近づいていると感じています。
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取材・文/谷口絵美(日経xwoman ARIA) 写真/鈴木愛子
コードタクト代表取締役、指揮者