人生のピンチに陥ったときに、局面を打開するきっかけになった「逆転の一冊」を聞くリレー連載。第7回は浪曲師・玉川奈々福さんの虎の子の一冊です。浪曲は、落語、講談とならぶ日本を代表する演芸・話芸のひとつ。「普通の会社員」時代に何気なく通い始めた三味線教室を経て、浪曲師として独り立ちするまでにはどんな苦悩があったのでしょうか。奈々福さんを芸の道に駆り立てた一冊とは?

(上)会社員と浪曲師の二役で20年
(下)浪曲を今に生きる芸にする覚悟 ←今回はココ

―― 前編「会社員と浪曲師の二役で20年」で、小沢昭一著『私のための芸能野史』(新潮文庫)が逆転の一冊だと聞きました。どんなきっかけでこの本を手に取ったのですか?

玉川奈々福さん(以下、敬称略) 出版社の上司から、この本を再文庫化したいので担当しないかと勧められたんです。それ以前にも小沢さんのお仕事には興味はありましたが、この本を読んで強烈に引かれていきました。

 新劇の役者である小沢さんは、『日本の放浪芸』の制作という重要な仕事もされています。日本が高度成長に入るにしたがって路上から消えていった放浪芸を求めて全国を取材し、収集した音源をもとに作ったレコードのシリーズです。

『私のための芸能野史』(小沢昭一著/新潮文庫)。新劇俳優の小沢昭一が、1970年代、日本の高度成長の中で消えつつあった放浪芸を求め、取材するフィールドノート。著者は、食うためにやらざるを得ないクロウトの芸人に憧れ、漫才、女相撲、浪花節などの芸人を歴訪しながら、彼らから差別され、あざ笑われる自分を感じるのだった
『私のための芸能野史』(小沢昭一著/新潮文庫)。新劇俳優の小沢昭一が、1970年代、日本の高度成長の中で消えつつあった放浪芸を求め、取材するフィールドノート。著者は、食うためにやらざるを得ないクロウトの芸人に憧れ、漫才、女相撲、浪花節などの芸人を歴訪しながら、彼らから差別され、あざ笑われる自分を感じるのだった

自分を支える言葉に必ず出合える一冊

奈々福 日本の芸能のほとんどは、一般社会から逸脱した下層の人々が、日銭をかせぐために、蔑視の中で必死に育てたものです。放浪芸の調査をしながら小沢さんは本も書かれています。その一冊が『私のための芸能野史』なんです。

 自分がやってきた新劇はシロウトのものだったと悟ったことで小沢さんは惑い、クロウトの芸を追うことに熱中します。けれども、取材を通してクロウトに憧れても、自分はクロウトにはなり得ないことに直面してしまう。それでも小沢さんは果敢に取材を進め、すがるように話を聞いていく。文字情報だけではない、小沢さんの迷いも感じられるから、響いてくるんです。

 私自身、「どこに浪曲の未来を見いだせばいいのか」、「自分の心身ではクロウトの芸に到底追いつかない」など、さまざまな局面で悩んだときに、この本を読み直してきました。何度も、何度も。そのたびにその後の自分を支えてくれる言葉がこの本の中にはあるんですよ。