変化のスピードが早くなり先が見通せない今、組織に多様性が求められるのと同じように、個人にも新しい価値観の獲得や学びによる成長が求められています。そのための「出合い」の場を持っていますか? 日々の仕事や自分の成長に「停滞感」を覚えているミドル世代にこそ必要な「越境」の始め方とその効用を探る、大特集です。

越境とは「2つ以上の場所を行き来する」こと

 越境とは具体的にどういう行動で、ARIA世代のキャリアにどんな効果をもたらすのでしょうか。社会人キャリアに詳しい法政大学大学院政策創造研究科教授の石山恒貴さんに聞きました。

編集部(以下、略) 石山さんは社会人のキャリアの中で「越境的学習」をテーマの一つとして研究されていますが、そもそも「越境的学習」とはどういうことを示すのですか?

石山恒貴さん(以下、石山) もともとは「会社以外の場所で学ぶ」という意味でしたが、私はもう少し広めに捉えています。「越境」とは境界を越えること。自分がホームだと思う場所とアウェーだと思う場所の間に境界があります。ホームとは、よく知っている人がいて使う日常用語も同じで、安心できるけれど刺激がない場所。アウェーは見知らぬ人たちがいて、日常使う用語も違うので居心地は悪いけれど刺激になる場所です。それぞれ境界を越えて、行ったり来たりするのがいいのだと思います。

 人事異動で新しい場所に行くような場合、最初はアウェー感がありますが、やがてはそこがホームになる。一方通行の移動にすぎません。越境に必要なのは、2つ以上の場を行き来すること。常に2つ以上の場があり、刺激を受けている状態です。

石山恒貴
石山恒貴
いしやまのぶたか/法政大学大学院政策創造研究科教授。一橋大学社会学部卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。「越境的学習」「キャリア開発」「人的資源管理」などを研究。日本労務学会副会長、人材育成学会常任理事、フリーランス協会アドバイザリーボードなど。主な著書に『日本企業のタレントマネジメント』(中央経済社)、『地域とゆるくつながろう!』(静岡新聞社:編著)、『越境的学習のメカニズム 実践共同体を往還しキャリア構築するナレッジ・ブローカーの実像』(福村出版)など。

―― 40代、50代のARIA世代には、なぜ越境が必要なのでしょうか。

石山 社会人になってから20年以上経過すると、停滞感を抱く場合が多くあります。1つの場所にずっといることで同調圧力が働き、過剰適応していくようになる。気づかないうちに固定観念にとらわれていきます。

 越境してホームとアウェーを行き来すると自分が何者なのか、あやふやになっていく。自分が相対化されるからモヤモヤするのです。これが学びの第一歩。越境は「何を学ぶか」よりも、「自分がどうありたいか」に気づく学びだと思っています。

 誰しも複数の要素を持っていて、越境することで自分にこんな一面があるのかと知る。そこが学びだと思うんです。昔は心理学的にも「本当の自分は1つ」と思われていましたが、現在は、ちょっとずつ違う自分があり、どれかが本物でどれかが偽物というわけではないと考えられています。たくさんの自分があって、それらを包括した自分らしさみたいなものがある。

 越境学習していく中で、たくさんの自分が見つかれば、その中でより自分がワクワクすること、やりたいこと、自信が持てることが見つかります。

―― 確かに、セカンドキャリアを考えようとしても、「何がやりたいか分からない」という悩みを持つ人は少なくないと思います。