昨年はコロナ禍で帰省を見送り、今年の年末は久しぶりに親と会う人も多いのではないでしょうか。まだまだ元気と思っていても、親は確実に年齢を重ねています。認知症や介護の問題は、ARIA世代にとっていつ直面することになっても不思議ではありません。お金のことや介護態勢の築き方、認知症のサインと対応など、いざというときに困らないために親と話しておきたいこと、知っておきたいことをまとめました。

 「親が急に倒れてそのまま入院」「認知症になって介護施設に入ることに」……高齢の親の変化は急に訪れます。現実問題として、すぐに必要となるのがお金。「親が自分の老後のために蓄えているはずだから大丈夫」と思っていたら、預金が動かせない!? これは実際に起こり得ることです。そうした事態を避けるために、今から知っておくべきことは? 成年後見制度の専門家で、親の介護や相続にまつわるお金の問題に詳しい司法書士の村山澄江さんにお話を聞きました。

異口同音に、「こんなことになるとは知らなかった」

編集部(以下、略) 村山さんは高齢者の家族の方々からの相談に応じているということですが、どんな困りごとが多いのでしょうか。

村山澄江さん(以下、村山) 一番多いのは、「あてにしていた資産が動かせないこと」です。親が認知症になり、介護費用を親の預貯金で賄おうと思ったらお金が引き出せないとか、親が介護施設に入るので、空き家となる実家を売却して費用に充てるつもりだったのに売ることができないとか。皆さんに共通しているのは、「こんなことになるとは知らなかった」ということです。

 認知症などで判断能力が低下すると、本人が家を売ることや、定期預金を解約することが難しくなります。家族といえども、本人の代わりにこれらの行為をすることはできません。

 今お話ししたのはまとまったお金が必要となる場面ですが、通院などでちょこちょこ発生するお金もありますよね。元気なときに親の同意の下、普通預金のキャッシュカードの暗証番号を聞いておけば、ATMで子どもが代わりにお金を引き出すことも可能です。でも、親御さん自身がキャッシュカードを管理していて、暗証番号の入力を一定回数間違え、口座にロックがかかってしまったケースがあります。解除するには本人が銀行の窓口で手続きをする必要があるのですが、そのときに判断能力が低下していると手続きができず、ATMでお金をおろすことは不可能になります。それで困っているというお子さんからの相談も一定数あります。

 これらの状況になった場合、親のお金を動かすためには、「成年後見制度」を使って法定後見人をつけることを銀行などから勧められる場合が多いのです。

 成年後見制度とは、判断能力が不十分なことにより、財産が侵害されたり、人としての尊厳が損なわれたりすることのないよう、法律面や生活面で支援する仕組みです。成年後見人は「法律上の代理人」として、本人に代わり財産の管理などを行います。

 既に本人の判断能力が低下している場合に利用を検討するのは法定後見制度です。家庭裁判所に申し立てを行うと、法定後見人が選任されます。法定後見人をつけることで「お金が動かせない、家が売却できない」といった目の前の問題は解決しますが、注意すべき点も多い制度で、「念のためにやっておく」という性質のものではありません。詳しい中身を知ってギリギリで裁判所に申し立てをやめた親族の方もいます。

―― 一体、どんな制度なのでしょうか。