元気なうちに親との思い出づくり この先の支えになる

如月 あと、私が事前に聞いておきたかった大きなことといえば、実家の土地と建物の名義が違ったことです。父の金庫に入っていた権利証を見たら、建物は父、土地は母の名義だった。一番の衝撃でした。母は認知症になってしまったので、もはや私が実家を売ることも貸すことも簡単にはできない。家族信託をやっておけばよかったと本当に思います。

―― それはまさに大事な問題で、この特集でも詳しく取り上げる予定です。そのほかに、何か「親と話しておけばよかったな」と思うことはありますか。

如月 生きてきて幸せだったかどうか聞きたかったですね。そういう心の内を知るような会話をすることなく父は死んでしまったし、母ももうほとんど口をききませんから。例えば子どもの頃の写真を一緒に見たりしていたら、「こんなことがあったね」などと話すきっかけになったかもしれません。

 これは女優の渡辺えりさんに取材で伺って本当にそうだなと思ったのですが、えりさんは「元気なうちに旅行に連れていってほしい」と急にお母様に頼まれ、仕事をなんとかやりくりして、お母様が若い頃から行きたいと思いながら行けなかったところを10日間くらいかけて家族旅行したそうなんです。そのときの思い出が今も宝ですとおっしゃっていました。お母様はその後施設に入られて、今はもう旅行をしたことも思い出せないけれど、ご自宅にいらっしゃる間は旅行アルバムをうれしそうに眺めるのが日課だったそうです。

 親御さんが元気な方は、なんらかの思い出を一緒につくっておかれるとよいのではと思います。それがこの先のよりどころとなって、親も子もお互いに生きていける。私もそういうものをつくっておけたらよかったです。

「父のことは、関わりがあった人と話すことや、残されたさまざまなものを通して、亡くなってから再発見している感じです」
「父のことは、関わりがあった人と話すことや、残されたさまざまなものを通して、亡くなってから再発見している感じです」

 介護とか親の死は、予想もしていないときに突然来るものです。ゆるやかに始まったり、近づいてきたりはしない。私だけでなくいろんな人からそう聞きました。

 親といろいろ話そうと思っても、いざ面と向かうと反発しちゃうっていう人は本当に多いです。でも、反発していたって親はいつか倒れたり、介護が始まったり、自分より先にいなくなったりする。それを心に留めておくだけで、行動が少しだけ変わるかもしれませんね。

取材・文/谷口絵美(日経xwoman ARIA) 写真/鈴木愛子

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