華々しく活躍する人の陰には、失敗とその失敗から学んだ「なにか」が必ずあるはずです。気鋭の経営学者は「経営学的に見れば失敗はチャンス。失敗をしたらお祝いを」と言い切ります。では、どうすれば失敗から挽回できるのでしょうか。「失敗の達人」やレジリエンスの専門家に、失敗から成功につなげるコツ、危機の乗り越え方を伝授してもらいます。

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入山章栄 経営学的に「失敗はチャンス」3理論で解説


 「経営学的に失敗はチャンス」と話す経営戦略論、国際経営論の専門家で早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄さん。(上)で見てきたのは、「失敗体験は、成功体験以上にその後のパフォーマンスを向上させる」ということだ。そのためのSTEP1は、失敗したらまず素直に認め、自分の認知の世界の狭さを自覚し、改善のための「サーチ」を重ねていくいう方法。(下)では、経営学の理論に基づく失敗への対処法STEP2、STEP3について入山さんに聞いた。

成功者は、数え切れない失敗からつくられる

 私が講演などでよく話すことの一つは、大きな成功を収めた経営者ほど失敗しているということ。例えば、米アップルの故スティーブ・ジョブズは、世に出した製品の9割くらいは失敗しています。米アマゾン・ドット・コム創業者兼CEOのジェフ・ベゾス氏はかなりの数の新規事業を毎年立ち上げていますが、1年半以内に半分以上が撤退しています。それだけ失敗を恐れずにチャレンジしてきたということです。

 中国アリババ集団創業者のジャック・マー氏は、決して優秀な学生ではなく、進学校にも通っていません。社会に出てからも失敗の連続で、地元のケンタッキーフライドチキンの求人に対して24人応募があり、23人が採用されたときの唯一の不採用者がジャック・マー氏だったという逸話もあります。

 つまり、私たちが成功者として見ている人の多くは、数え切れない失敗をして、その後成功者といわれるようになっているということです。そして、試行錯誤をしていく中で「サーチ」が身に付き、成功した後もサーチを続けていたから、成長を止めずに済んだということなのでしょう。

 しかし、みんながみんな、彼らのような強靭(きょうじん)な精神やチャレンジ精神があるわけではありません。失敗するとどうしても落ち込んでしまいます。失敗を糧にして努力することはいとわないとしても、失敗がもたらすことの「嫌なこと」の一つが、この「気分の落ち込み」なのではないでしょうか。

 実はこれには、特効薬があります。それは、大失敗したら「ケーキビュッフェでお祝いしよう」ということです(笑)。ここからが、経営学の理論に基づく失敗への対処法STEP2の解説になります。

「経営学では失敗に対する研究を徹底的に重ね、その結果を学問に取り入れています」と入山さん。私たちはそれをどう生かしていけばいいのかを聞いた
「経営学では失敗に対する研究を徹底的に重ね、その結果を学問に取り入れています」と入山さん。私たちはそれをどう生かしていけばいいのかを聞いた

「お祝い」で感情を相殺し、サーチは止めない

 私たちの感情と認知は、分けることができます。失敗を感情と認知に分解してみると、まず認知的には、「自分の失敗を認め、いかに狭いところしか見ていないかということを知る」ことです。そして遠くを見る作業である「サーチ」を続けていけばいい。もしかしたらその過程で「自分が思っていたほど深刻な失敗ではなかった」ことに気付けるかもしれません。しかしそう整理できたとしても、感情の部分が落ち込んでいると、どうしてもつらさが残ります。

 そこで、私が提案するのが「お祝い」なのです。失敗をしてしまったら、自分にとって最高のご褒美になるようなことをするように、マイルールを作ります。ケーキビュッフェはその一例です。