組織での職位が上がるにつれて期待されるのが、高度な意思決定。『ビジネススクール意思決定入門』(日経BP)の著者で経営学者の内田和成さんは、「リーダーの最重要スキルは『決めること』」と言います。意思決定の質は、複数の指標を組み合わせることで高まりますが、「数値の幻想に惑わされず、数字や状況を冷静に読み取る直観力を磨くことも必要」と内田さんは注意を促します。今回は、数値を基にした「合理性」の判断と感情のバランスについてお話しします。

(1)リーダーに必要な経済性分析 「最大利益」どう見極める
(2)満場一致の意思決定は質を疑え 経験を重ねて精度上げる ←今回はココ
(3)上司に提案が通らない人は、まずは相手の「性格」を探る

 第1回では、利益の見込みなどを数値化して最も有利な選択肢を選び出すための手法の1つ「経済性分析」を解説しました。数値化は、合理的に割り切って判断するときに役立ちます。しかし、人は目先の利益や感情に左右されがちで、必ずしも合理的な判断だけで物事を決め、行動するわけではありません。ビジネスでは経済的な合理性で割り切ることを求められる場面も少なくありませんが、意思決定をする人は、「理性」とともに「感情」が判断に及ぼす影響も頭に入れておいてください。

 たとえ話で説明しましょう。(1)「今日1万円もらえる」(2)「1年後に1万500円もらえる」の2つの選択肢があると、皆さんはどちらを選びますか? この質問に対して(1)を選ぶ人が多くなる傾向があります。数字上の損得で考えると、1年待てばもらえる額が500円増えるということは、年利5%で運用できるのと同じこと。現在の銀行預金の金利を考えると(2)を選んだほうがかなり得をするわけですが、それでも今すぐ1万円欲しい事情があったり、1万円を得てさらに別の投資に回したり、何らかの思惑が働くことで多くの人が(1)を選びます。

 また、データや確率などの数字にとらわれて、判断が惑わされてしまうことがあります。あなたがリーダーになって数値を基に説得され決断を求められたときには、「数値のマジックに惑わされていないか」と疑うことも必要です。ここで、1つ問題を出しますので、答えを選んでみてください。

白と黒に色を塗り分けたサイコロがあります。6面のうち、4面が白、2面が黒く塗られています。このサイコロを何回か振ったとき、次の3つのうち、どの並びが最も出やすいでしょうか?
(a)黒、白、黒、黒、黒
(b)白、黒、白、黒、黒、黒
(c)白、黒、黒、黒、黒、黒
(a)(b)(c)、3つのうち一番出やすい並びはどれでしょう?
(a)(b)(c)、3つのうち一番出やすい並びはどれでしょう?