資産形成やキャリアの構築に精を出しても、思わぬトラブルに巻き込まれて人生の計画が大きく狂ってしまうことがあります。被害者の多くが口にするのは「まさか自分が…」という言葉。詐欺や消費者トラブルを未然に防ぐにはどうすればいいのか。自分で自分の身を守る術を専門家に聞きました。

 外国人だと語ってSNSやマッチングアプリを通して恋愛感情を抱かせ、生活費や投資などを名目に金銭をだまし取る「国際ロマンス詐欺」。国民生活センターによると、「被害者の総数は男性が多いが、2020年から21年にかけて女性相談者の割合は増加しており、年齢も30~40代と若年化している」といいます。

 「レディコミの女王」と名高い、漫画家の井出智香恵さんもその被害者のひとり。18年春から約3年半、ハリウッドスターのマーク・ラファロを名乗る人物にお金を送り続け、総額7500万円もの大金を失いました。「今後私のような被害者を生みたくない」という思いから公表に踏み切った井出さん。詐欺被害の経緯や経験者視点での注意点などを語ってくれました。

「君の漫画をエマ・ワトソンから紹介された」

編集部(以下、略) 詐欺師と初めて接触したのは70歳のときだったそうですが、どのようにして出会ったのですか?

井出智香恵さん(以下、井出) 最初はFacebookでメッセージが届きました。大好きな映画『アベンジャーズ』シリーズの超人・ハルク役を演じるマーク・ラファロ本人だというのですが、もちろん最初は疑いました。ハリウッドスターが私に連絡するはずはないですから。

 でも彼に「(俳優の)エマ・ワトソンに君が描いた『源氏物語 美しの花乱』を薦められたんだ」「すごい才能の持ち主だ。君ともっと仲良くなりたい」などと言われてすっかり舞い上がってしまったんです。『源氏物語 美しの花乱』は英訳され、海外でも出版されていましたから。

井出智香恵 漫画家
井出智香恵 漫画家
いで ちかえ/1948年、長野県生まれ。66年少女漫画雑誌『りぼん』で漫画家デビュー。68年に掲載された『ビバ! バレーボール』が人気を博す。80年代半ばから活躍の場をレディースコミックに移し、『羅刹の家』『女監察医』などのヒット作を次々世に送り出し「レディコミの女王」と呼ばれる。2022年8月に国際ロマンス詐欺被害について赤裸々に語ったエッセー『毒の恋 7500万円を奪われた「実録・国際ロマンス詐欺」』(双葉社)、9月に電子コミック版『毒の恋―Poison Love―』(双葉社)を発売

―― やりとりは英語だったのですか?

井出 そうです。私は英語が得意ではありませんから、ネットの翻訳機能を使いながらチャットで会話していました。それも大きな失敗の一つです。慣れない言語でのやりとりでは嘘も見破りにくいですし、後に英語圏で生活している知人に見せたら、相手の英語もネーティブではなく、間違いだらけだったというのですから!

―― 英語が得意だったら、最初の段階で見破れたのですね。他にもだまされた要因はありますか?

井出 何度も「本人なの?」と疑ったこともありましたが、そのたびにマークは「なんてひどいことを言うんだ!」と、本気で怒りました。そしてある日「じゃあ、ビデオチャットをするかい?」と提案されたんです。