ウクライナ情勢や急速な円安を背景に物価が上昇する中、2022年度の公的年金支給額は昨年度に続き引き下げられました。少子高齢化が進む現在、給付水準はさらに下がっていくでしょう。老後の経済的な不安と向き合うには、60歳以降も働く未来を真剣に考えたほうが良さそうです。すでにそんな生き方をしている人、視野に入れている人たちを取材しました。

 「団体を一から作るなんていうことをやった自分に、我ながらちょっとびっくりしています」。そう笑うのは、ヤフーに勤務する栗田由希子さん。栗田さんは2021年から22年にかけて、オリジナルミュージカルを上演する団体「Tokyo EHON座」の立ち上げに奔走。現在は無償でスキルを提供するプロボノとして運営面を取り仕切っています。20代の頃から「会社以外の居場所を充実させること」を楽しんできた栗田さんが、プロボノの手応えを経て思い描くようになったという「会社員の先の自分」とは?

ヤフーのID(Yahoo! JAPAN ID)開発部門に所属する栗田由希子さん。会社員として働きながら、自身が中心となって立ち上げたミュージカル劇団「Tokyo EHON座」の事務局・広報スタッフとしても精力的に活動している
ヤフーのID(Yahoo! JAPAN ID)開発部門に所属する栗田由希子さん。会社員として働きながら、自身が中心となって立ち上げたミュージカル劇団「Tokyo EHON座」の事務局・広報スタッフとしても精力的に活動している

編集部(以下、略) 仕事をしながら、本業以外の多様なコミュニティで活動する人は読者世代に多いですが、ミュージカル団体でのプロボノというのは初めて聞くケースです。

栗田由希子さん(以下、栗田) 私が活動している「Tokyo EHON座(以下、EHON座)」は22年5月に発足しました。今は23年3月の第1回公演に向けて、プロの先生方の指導の下、小学生から60代まで計27人のアマチュア出演者たちが稽古を重ねているところです。私は事務局スタッフとして、運営の実務全般を担当しています。

―― そもそも、どのような経緯で団体を設立することになったのでしょうか?

栗田 私は以前、別のミュージカル団体に参加していて、そのときは出演者の一人でした。でも21年に、その団体が諸事情により解散することに。仲間と新しい活動の場を求めたことが直接のきっかけです。

―― ミュージカルがお好きなことは想像できましたが、見るのではなく出演するほうだったとは。

栗田 もともとは見るのが好きで、舞台に立つ側への思い入れはそこまでなかったんです。

 私は今年で45歳ですが、40歳になったときに「人生でやってみたかったことって何かな」と振り返ってみて、高校時代に演劇的なものに興味があったなあと思い出したんです。そこからふと思い立って、ブロードウェーの舞台を見ようとニューヨークへ一人旅をしました。

 その後、仕事で知り合った人に雑談で「演劇が好きで、ブロードウェーにも行ってきたんですよ」と話したら、「僕、ミュージカルをやっているんです。よかったら稽古の見学に来ませんか?」と誘われました。その流れで19年から参加することになったのが、東京都杉並区を拠点に活動する「ミュージカル・プール」という団体でした。

知らない世界に飛び込み、上達を目指すのが楽しい

 私は仕事の傍ら、20代の頃から登山やマラソンなど、知らない世界に飛び込むことを楽しんできました。大人になってから何かを始めて上達を目指すのが楽しく、特にはまったのがマラソンです。本格的にトレーニングを積んで、第1回の東京マラソンにも出場。記録は3時間9分で、ホームページに上位完走者として今も名前が残っています(笑)。

 マラソンって高齢でも速いペースで走る人が結構いたりして、いくつになってもアクティブに活動する方々から学ぶことがたくさんありました。「会社にはない出会いの魅力」を最初に実感したのがマラソンのコミュニティだった気がします。

 ミュージカル・プールに誘われたのは、マラソンを趣味で楽しむ程度に切り替えたタイミング。これまでいろんなことに挑戦してきたのと同様、ミュージカルも一度はやってみようと思いました。そうしたら、すごく楽しかったんです。

―― どんな点に魅力を感じたのですか。

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