今、ビジネスパーソンに最も必要なのは、英語力でも会計力でもありません。あらゆる業種や職種ですぐに使える“究極のポータブルスキル”である文章術です。相手に意図が伝わる文章術、心を揺さぶるスピーチ術、報告書を1枚にまとめるコツ……その手があったか! と膝を打つ、誰でもまねができるテクニックをお届けします。

 どんなに複雑な内容の報告書も、企画書も。長い会議の議事録も、仕事の進行管理も、上司への面談資料も。「すべての書類を『紙1枚』でまとめることで、仕事の質も効率も劇的にアップします」。こう話すのは著者累計45万部超、『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』著者の浅田すぐるさんだ。「トヨタでは、どんな仕事のベースにも必ず紙1枚がありました」という浅田さんに、1枚でまとめる効用、そしてそのまとめ方のコツを聞いた。

「紙1枚」という制約から生まれるもの

編集部(以下、略) 報告書、資料、企画書……日々の業務であらゆる書類を作る機会がありますが、浅田さんはすべてを「紙1枚」でまとめる提案をしています。そのメリットは何でしょうか。

浅田すぐる(以下、浅田) 私がトヨタ自動車の会社員時代に所属していた海外営業部門では、業務上の書類はすべてA3またはA4サイズの紙1枚に収める習慣が社員に根付いていました。入社当初は上司や先輩に真っ赤に修正されましたが、報告書も企画書も資料も、とにかく紙1枚にまとめる訓練を繰り返す過程で、自分の思考が整理されることに気付きました。

 「紙1枚」という大きな制約があるがゆえに、「誰のため、何のためにこの1枚を作るか」をしっかり考える癖がついたのです。目的を明確にしないとどんどん内容が膨らんでいき、紙1枚には収まりませんから。人は「好きなことを自由にやっていい」と言われると、逆に何をしたらいいか分からなくなるものです。ある程度の制約があるからこそ、考えが研ぎ澄まされ、無駄のない文章を書くことができるようになりました。

―― なるほど、紙1枚という「制約」がいい効果を生んでくれるのですね。では、紙1枚にまとめるコツは何でしょうか。

浅田 先ほども言いましたが、まずは「誰のため、何のため」に作るかを明確化すること。読み手にどのような反応をしてほしいかまで考えます。「相手が知りたいことは何か?」を無視して、自分が伝えたい情報だけを載せても、相手の心を動かすことはできません。

トヨタのあらゆる報告書や資料に共通する3つの特徴は、<b>1.「紙1枚」にまとまっていること、2.「枠=フレーム」で囲まれていること、3.「テーマ」が各枠の上部に記載されていること。</b>フレームで囲む理由は、「人は空白を嫌い、空っぽの状態を見ると何かしら埋めたくなる性質があります。なんとか埋めたい、何を書いたらいいだろう? という問いが条件反射的に立ち上がってくるからです」。いわば、考えるスイッチが入るというわけだ。テーマを書く理由は、テーマと関係のない話を枠内に書かないため。「紙1枚」と同様に「制約」として機能させている
トヨタのあらゆる報告書や資料に共通する3つの特徴は、1.「紙1枚」にまとまっていること、2.「枠=フレーム」で囲まれていること、3.「テーマ」が各枠の上部に記載されていること。フレームで囲む理由は、「人は空白を嫌い、空っぽの状態を見ると何かしら埋めたくなる性質があります。なんとか埋めたい、何を書いたらいいだろう? という問いが条件反射的に立ち上がってくるからです」。いわば、考えるスイッチが入るというわけだ。テーマを書く理由は、テーマと関係のない話を枠内に書かないため。「紙1枚」と同様に「制約」として機能させている
「枠もテーマも書かれていない箇条書きの資料(左)は、何について、どんなことが、どんな構成で書かれているかが一見ただけでは分かりません。右のように枠、テーマを書いた上で枠内に書き込めば一目瞭然になります」(浅田さん)
「枠もテーマも書かれていない箇条書きの資料(左)は、何について、どんなことが、どんな構成で書かれているかが一見ただけでは分かりません。右のように枠、テーマを書いた上で枠内に書き込めば一目瞭然になります」(浅田さん)
次ページ以降で、紙1枚にまとめるコツを解説する
次ページ以降で、紙1枚にまとめるコツを解説する