今、ビジネスパーソンに最も必要なのは、英語力でも会計力でもありません。あらゆる業種や職種ですぐに使える“究極のポータブルスキル”である文章術です。相手に意図が伝わる文章術、心を揺さぶるスピーチ術、報告書を1枚にまとめるコツ……その手があったか! と膝を打つ、誰でもまねができるテクニックをお届けします。

 バラク・オバマ元米国大統領が“Change”と訴えた熱いスピーチに、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で“Stay hungry, stay foolish”と語った名スピーチ。彼らのように何千人、何万人に向けたものではなく、たとえ小さな会議室で行うスピーチだとしても、聞き手の心にしっかり自分の思いを届けたいもの。経営者や政治家のスピーチライターとして活躍してきた言葉のスペシャリスト・ひきたよしあきさんに、スピーチで思いを的確に伝えるテクニック、そして聞き手の心を動かす極意を聞きました。

いきなり本題に入るよりも大事なことは?

編集部(以下、略) スピーチには、苦手意識を持つ人が多いです。まずは、何から始めればいいでしょうか。

ひきたよしあき(以下、ひきた) まず心がけてほしいのは、誰もが共感できる話題から始めることです(極意1)。なぜ多くの人が、雑談の最初に「今日は一気に肌寒くなりましたね」などと天候の話をするのか。それは、共感を得やすいからです。早い段階で多くの人の共感を得ることができれば、聞き手の意識が一気に話者に向いていきます。今日は何の日か、どんなニュースがあったか、天候は? 交通状況は? など、スマホで調べれば山ほど出てきますよね。誰もが共感できる「今日のデータ」をどれぐらい仕入れているかが、スピーチを成功させる第一歩です。

―― 緊張しているときほどいきなり本題から入りがちですが、その前に聞き手に心を向けさせるのが大事なんですね。落語の「まくら」のようですね。

ひきた まさに同じ役割です。結婚式のスピーチだったとしても同様。「会場の入り口で、とてもすてきなジャズが流れていましたね。皆さんも聞きましたか?」と冒頭で投げかける。ほとんどの人が耳にしていたでしょうから「あ、あのときの曲ね」となる。その後に「実は新郎が大学時代にジャズを演奏していましてね」と話を展開していけば、いきなり本題に入るより、聞き手の心をつかめるはずです。

聞き手の共感をどう得るか?
聞き手の共感をどう得るか?

―― なるほど。聞き手の共感を得た後に意識することは何でしょうか。

ひきた 「2・6・2」の法則(極意2)をご存じですか? 会場に10人いるとしたら、おおよその割合として、自分に対してネガティブ、もしくは反対意見を持っている人が2人、興味がない人が6人、興味を持っている人が2人いる、ということです。

 重要なのは「興味を持っている2人が誰か」を早く見極めることです。大きくうなずいてくれる人、目を見て熱心に聞いてくれている人、メモを取りながら聞いている人……リアルなら会場を見渡す、オンラインならモニターを一覧すれば分かるはずです。その2人が見つかったら、熱烈なラブレターを書くように一生懸命話しかけます。そうすると、興味を持っていなかったいわば中間層の6人が、「話し手があの2人ばかり見ているな」と気づき、次第に興味を持つ2人の側に引きずられてくるのです。