バブル崩壊後の不況期に社会に出る運命にあったがゆえに、就職難に見舞われた氷河期世代。40代の多くの方は、少なからず氷河期に辛酸をなめた経験があるはずです。氷河期はなぜ生まれたのか、氷河期世代を取り巻く環境の変化、さらにはウィズコロナの時代にこの世代がどうなっていくかを考察。「氷河期の壁」を乗り越え、苦難を成長の源泉に変えた女性たちのレジリエンスにも迫ります。

 バブル世代だ、氷河期世代だとよく口にするものの、実際には何年生まれが該当するのか、どうしてそうした世代が誕生したのか、ご存じでしょうか。昭和から平成へ、産業構造も価値観も変化する時代に何が起きていたのか。就職氷河期はなぜ生み出されたのか。労働社会学者の常見陽平さんと、リクルートワークス研究所主任研究員の中村天江さん、2人の専門家に就職氷河期が誕生した背景と現状、さらに今後氷河期世代や採用を考える企業はどうすべきなのか、解説してもらいました。 

バブル崩壊が団塊ジュニアを直撃した「就職氷河期」

―― そもそも、なぜ就職氷河期が生まれたのでしょうか。

常見陽平さん(以下、敬称略) 「就職氷河期」という言葉がいつ生まれたか知っていますか? 1992年11月号の『就職ジャーナル』で初めて登場し、94年には流行語大賞の審査員特選造語賞を獲得するほど注目度が高まりました。いろいろな区切り方がありますが、一般的に93年~2004年に卒業し、世の中に出た人たちを「就職氷河期世代」と呼びます。

 1980年代後半には円高と低金利政策で株価や地価が高騰していましたが、90年に入ると株価が下がり始め、「バブル経済」が新語・流行語大賞の流行語部門銀賞に選ばれます。91年には地価が下がり始め、92年8月までに株価は当面の最安値まで落ち込み、一気にバブル経済が崩壊します。

 経済は急激に冷え込み、92年から大手企業が軒並み新卒採用を減らしますが、タイミングの悪いことに、直撃されたのは団塊ジュニア(*)と呼ばれる人口のボリュームゾーンでした。これが「就職氷河期」の発端です。

 *団塊ジュニアは、1971~1974年生まれを指す。

常見 一方で学校にも変化が起こります。91年に大学設置基準の大綱化、つまり規制緩和が行われ、大学は523校から800校弱まで一気に増えて大学進学率が上がりました。大学生の絶対数が増えたのです。

 大学生の数は増加したのに大企業の大卒採用は減少となり、今まで大卒者が行かなかったサービス業などの業界にも押し寄せることになります。

非正規雇用や中途採用が急拡大、学生たちを振り回した

 95年に日経連がまとめた『新時代の「日本的経営」』というリポートで、「長期蓄積能力活用型グループ」として長期に雇用する正社員と、「高度専門能力活用型グループ」「雇用柔軟型グループ」という非正規雇用者で人材のポートフォリオを組み直しましょう、ということが提言されている。もともとは正社員のあり方を見直そうという提言でしたが、その後、企業は正社員の数を絞り、非正規雇用者を積極的に登用し始めます。

 その頃は日本経済が本気で厳しい状態にあえぐ中、構造改革だ、即戦力だ、中途採用だと政治も企業も方向転換を続け、学生たちはそのたびに振り回されるという状況でした。