2040年には一人暮らしが世帯全体の4割を占めると推測されている長寿国・日本。未婚、既婚に関わらず、いずれは誰もが「おひとりさま」になる可能性があります。ひとりで生きていけるようになることは、老後に備えるだけでなく、今の生活にも新たな視点や行動の広がりをもたらすはず。「ソロ活」を実践している人や識者のお話から、ひとりを楽しみ、ひとりで歩く未来をポジティブに迎えるためのヒントを探ります。

 いつかはみんなおひとりさま。取材の冒頭で特集のテーマを伝えると、「生姜の女神」こと森島土紀子さんは「そうそう。私がいつもみんなに言ってることよ」と言い、急に涙ぐんだ。7年前に亡くなった夫のことを思い出すと、今も涙がこぼれるという。

森島土紀子(もりしま・ときこ)/生姜(しょうが)料理専門店のオーナーシェフ。1953年生まれ。94年、「生姜料理しょうが」開店。「生姜軟骨料理がらがら」、「祝茶房紅拍手」と3店舗に拡大し、現在は「生姜軟骨料理がらがら」から改名した「生姜料理しょうが」1店を経営。すべてのを料理にしょうがを使ったメニューが評判となり、現在も「生姜の女神」としてテレビや雑誌などで活躍中
森島土紀子(もりしま・ときこ)/生姜(しょうが)料理専門店のオーナーシェフ。1953年生まれ。94年、「生姜料理しょうが」開店。「生姜軟骨料理がらがら」、「祝茶房紅拍手」と3店舗に拡大し、現在は「生姜軟骨料理がらがら」から改名した「生姜料理しょうが」1店を経営。すべてのを料理にしょうがを使ったメニューが評判となり、現在も「生姜の女神」としてテレビや雑誌などで活躍中

ある朝突然訪れた、最愛の夫との別れ

編集部(以下、略) ご主人の存在は大きかったんですね。

森島土紀子さん(以下、森島) 突然亡くなったから。大好きなゴルフに「行ってくるね」と朝出掛けて、次に連絡があったのは、ゴルフ場で倒れて救急車で搬送されている最中に心臓が止まったという知らせ。いい死に方よね、好きなことしながら、ほとんど苦しまずに。

 その少し前に、娘たちと食事しながら「仕事も順調だし毎日楽しい。いつ死んでもいいよ」と夫は言ってたんです。本当になっちゃった。だからね、こんなこと言っちゃだめなの。

 せっかく生きてるんだから、楽しく生きなきゃと思うんです。自分が好きなことを見つけられたら、それは幸せなことだから。

―― 森島さんは一時はお店を3店経営され、ほかにも出版、料理教室の開催と大活躍ですが、もともと専業主婦だったんですよね?

森島 そう。実は40歳くらいで初めて社会に出ました。学生時代に結婚して、夫に働くなと言われたので就職しなかったんです。家で子ども向けに造形教室を開いたり、陶器や洋服を作ったり、常に何かはやっていましたが。

 30年前に、友達と2人で新百合ヶ丘駅の近くでお店を始めました。子ども服や陶器を売って、彼女はお花のアレンジを教えて。2人で折半して1000万円借金したんです。

 その少し前に夫は出版社に転職して料理の本を手掛けていました。料理コンテストも開催していて、高知の野菜を使った料理のコンテストにしょうがを選んで参加したら、特別賞をもらったんです。しょうががこんなに受けるとは意外でしたし、私自身しょうがは好きだし、お店の名前を「生活の大事な隠し味」という意味で「仕事着屋しょうが」と名付けたんです。

 最初は、レジが閉まらないくらいもうかったんですよ。自分で作ったものを売るから、毎日夜なべ仕事のように作品を作って。でも半年後には近所に大型スーパーや商業施設が次々とでき、お客さんがそちらに流れて家賃も払えないくらいになったから、2人で相談して小さいお店の半分のスペースでしょうが料理のお店を始めたんです。