2040年には一人暮らしが世帯全体の4割を占めると推測されている長寿国・日本。未婚、既婚に関わらず、いずれは誰もが「おひとりさま」になる可能性があります。ひとりで生きていけるようになることは、老後に備えるだけでなく、今の生活にも新たな視点や行動の広がりをもたらすはず。「ソロ活」を実践している人や識者のお話から、ひとりを楽しみ、ひとりで歩く未来をポジティブに迎えるためのヒントを探ります。

 結婚して子育てをしながら仕事をしてきた人は、長いこと「自分ひとりのために使う時間」を楽しむ余裕はなかったのではないでしょうか。リコーのプロダクトマーケティング部門に勤務し、3人の子どもを持つ高内正恵さん(55歳)も、かつては仕事と子育ての両立にめまぐるしい日々を送っていました。しかし、ある出来事をきっかけに「やりたいことを自分で決めて、ひとりで行動する」ライフスタイルへとシフト。それによって生まれた意識の変化や今後の人生への向き合い方について話を聞きました。

家族に予定も行き先も告げずワーケーションへ出発

 大阪府在住の高内さんは、夫と社会人の長男(27歳)、社会人の長女(24歳)、大学生の次女の5人家族。長男は独立し、現在は4人で暮らしています。

 勤務先のリコーは自律的に働く時間や場所を選択できる働き方を推進していて、2020年10月からは、リモートワークの日数制限と、就業のコアタイムを撤廃。この仕組みをフル活用し、高内さんは国内のさまざまな場所へ出掛けてリフレッシュしながら仕事をするワーケーションを積極的に実践しています。「昨年10月以降、オフィスに出社したのは1日だけ。コロナの状況や仕事の予定を見ながらスケジュールを組み、北海道の道東エリアや離島などに滞在しています」

 ワーケーションをするときは1~2週間ほど家を空けますが、高内さんはほとんどの場合、家族に予定も行き先も告げずに行くそう。「最近はLINEでの事後報告が多いですね。私は家族の食事だけは作りたいという思いが昔からあって、おかずの作り置きを始めることが出掛けるサイン(笑)。ワーケーション中の様子はSNSにアップするので、娘たちには『ママの消息はインスタで分かる』と言われています。

 以前は前もって行き先を伝えていたんですけど、自然と言わなくなりました。誰かに了解を得るって、何となく気が引けているんですよね。夫も何も聞いてこないので、あるときから『あ、これは別に言わなくてもいいんだな』と思って。

 だからといって、家族の仲が悪いわけでも、愛情がないわけでもありません。わが家にとって家族のつながりの基本は、みんながそこに帰りたいと思える家があって、私の作ったご飯を食べること。あとはお互い干渉しないし、個が自立しているだけなんです」

以前はいつも「早く家に帰らなきゃ」と思っていた

 長期のワーケーションから時折楽しむ宝塚観劇まで、思い立ったら予定を組んでひとりでぱっと出掛けるという高内さんですが、元から「ひとり行動気質」があったわけではありません。むしろその逆で、結婚が22歳と早く、ひとり暮らしの経験もなし。29歳で第1子を出産して以降は、仕事に子育てに無我夢中の日々を過ごしてきました。

「職場が遠くて毎朝4時起きしていた上に、息子が中学でちょっと荒れてしまった数年間は大変過ぎて記憶がほとんどないです。ありがたいことに夫の両親が近くに住んでいたので、子どもたちの保育園の送り迎えなどはずっとお願いすることができました。だから義父母に余計な負担をかけたくないと、『少しでも早く家に帰らなきゃ』という思いがいつも頭の中にあった。出張に行った帰りは、1本でも早い新幹線に乗ろうと走って転んだり、降りる駅が近づくと、ホームの階段に一番近い車両まで移動したりしていましたね」

 常に行動の軸にあるのは「母であり、家族の一員としての自分」で、ひとりで何かしようという発想自体がなかったという高内さん。そんな生活が大きく変化したのは2016年のことでした。