さまざまなことが不確実で先が読みづらい時代を生き抜くため、ビジネスパーソンが身に付けたい真の教養力とは? 単なる知識の蓄積ではなく、仕事や人間関係に生かせる、これからの「教養力」について組織のリーダーやオピニオンリーダーと考えます。

 元日本マイクロソフト社長で、政治、経済、時事問題など幅広い分野に造詣が深いことで知られる成毛眞さん。メディアでの発信や本の執筆も数多くこなす思考力と縦横無尽なアウトプット力はいかにして培われているのか。成毛さんが考える「教養力」について解説をお願いすると……。

成毛眞(なるけ・まこと)
成毛眞(なるけ・まこと)
1955年北海道生まれ。86年にマイクロソフトに入社し、91年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後は、投資コンサルティング会社インスパイアを設立。現在は書評サイト「HONZ」の代表も務める。『アフターコロナの生存戦略 不安定な情勢でも自由に遊び存分に稼ぐための新コンセプト』(KADOKAWA)、『2040年の未来予測』(日経BP)など著書多数。最新刊は『39歳からのシン教養』(PHP研究所)

大昔の哲学者の言葉を覚えても意味はない

編集部(以下、略) ずばり、成毛さんが考える「教養」とは何でしょうか?

成毛眞さん(以下、成毛) ほぼほぼ、科学です。

―― えっ、科学ですか。予想外の答えでした。

成毛 文化系の人たちが考える教養って、昔はよく「デカンショ」などと言われていました。哲学者のデカルト、カント、ショーペンハウエルのことで、この3人の本を読んでいないと教養人じゃないと。

 でも、科学が未発達の時代を生きた哲学者の言葉を今さらせっせと覚えても、はっきり言って無意味です。

 基本的に、教養ってすべて最先端のものなんですよ。アリストテレスにしろデカルトにしろ西田幾多郎にしろ、古代ギリシャと、17世紀ヨーロッパと、明治・大正時代の最先端のことを書いている。脳科学も生命科学も一切発達していない時代には、「我思う、ゆえに我あり」という考えは新しかった。でも今なら「自分が確かに存在していること」なんて当たり前ですよね。ああいう哲学者たちが21世紀にいたら、全然違うものを書き残していると思いますよ。

 遺伝子の実体はDNAであると科学的に明らかになったのは20世紀半ば以降。1958年にセントラルドグマ(分子遺伝学の基本原理)が見つかって、それから分子生物学がどんどん進展しました。それ以前の人類はDNAの存在を知らなかったのですから、知識のない状態で「命とは」とか考えても意味がないんです。19世紀までは言ってみれば感覚の世界、思い込みの世界だった。

 それが20世紀に入り、100年かかって科学技術全盛の時代になった。その結果、企業の経営者もどんどん理系出身者になっています。だって、科学が分かっていないと正しい判断ができないですからね。

 論理的思考力がなければ物事を正しく判断することなんてできないし、新しいアイデアを生み出すこともできません。ファクトベースで論理的に考えるためのよりどころとなるのは科学の知識。だから、科学技術が発達した20世紀以降の教養は科学なんです。

―― 読者世代が力を入れるべきなのも、科学分野の新しい情報にアンテナを張ることでしょうか?

成毛 そうですね。例えば健康なんてまさに科学の世界です。