さまざまなことが不確実で先が読みづらい時代を生き抜くため、ビジネスパーソンが身に付けたい真の教養力とは? 単なる知識の蓄積ではなく、仕事や人間関係に生かせる、これからの「教養力」について組織のリーダーやオピニオンリーダーと考えます。

 フランスの宝飾ブランド「カルティエ」の日本法人リシュモン ジャパンでカルティエ ジャパン プレジデント&CEOを務める宮地純さん。10代後半まで日本と西欧を行き来しながら育ち、多様な文化と価値観の中で育ってきた経験を持ちます。ブランドビジネスを通じて、国内外のエグゼクティブと接する機会も多い宮地さんが考える、これからの時代に必要な“教養”とは?

宮地純 カルティエ ジャパン プレジデント&CEO
宮地純 カルティエ ジャパン プレジデント&CEO
みやち・じゅん/京都大学法学部卒業後、外資系証券会社に入社。フランスのビジネススクールINSEADでMBA取得後、ラグジュアリー業界でのキャリアをスタート。2017年リシュモン ジャパンに入社し、カルティエ ジャパン マーケティング&コミュニケーション本部長に就任。20年8月から現職、日本人女性がCEOに就任するのはカルティエ ジャパン初。

ビジネスの会話に、哲学や神話の一節が引用される理由

編集部(以下、略) カルティエは、世界に約300店舗を展開するほか、1984年に「カルティエ現代美術財団」を設立、芸術的・文化的な取り組みも行っています。カルティエには、教養を大切にする企業文化があるのでしょうか?

宮地純さん(以下、宮地) 教養はビジネスのコミュニケーションを豊かにする大切な要素の1つ、という意識は浸透しているように思います。「教養のある人は?」と聞かれると、カルティエ インターナショナルCEOを務めるシリル・ヴィニュロンの名前がまず思い浮かびます。

―― シリル・ヴィニュロンさんは、日本文化の愛好家でもあるそうですね。

宮地 彼は文化や芸術、音楽、演劇、美学(美の本質・原理などを研究する学問)など、幅広い分野に造詣が深いです。哲学的な話題も多く、本質的な視点が求められます。

 例えば、「美とは何か?」「ロシアとフランスのバレエ表現の違いとは?」など、抽象的・感覚的にも思える、答えのない問いに対してどのような考えを持っているか。会話の中でギリシャ神話の引用も自然に出てくるので、教養力が試されます。それは、決して知識を鼻にかけているというわけではありません。物事を表層的にではなく、物事の奥にまでより深い理解があるかどうかが大切だからだと思います。

―― 教養に対する考え方で、日本と西欧の違いを感じますか?

宮地 私は2歳から17歳まで父の仕事の都合で日本と西欧を行き来し、フランス、英国、ドイツ、スウェーデンで育ちました。小学生の頃はほとんどを日本で過ごし、それ以降はヨーロッパ、高校はインターナショナル・バカロレア試験のある学校に進学しました。

 西欧と日本の教養観の違いを比較することはできませんが、インターナショナル・バカロレアのカリキュラムには、“Theory of Knowledge”といういわゆる「哲学」に当たる教養が必修科目にあり、勉強して覚えるのではなく、答えのない事象に対して考えを深める学問との出合いは、私のターニングポイントになりました。

―― 宮地さんは、知識が足りないことで恥ずかしい思いを抱いたことはありますか?

カルティエジャパン CEO宮地純さんが考える これからの教養とは? ●ハウツー本に頼らず、自分で集めた情報を場面に応じて活用し、自分なりの考えをつくる ●直感力(直観力)が大切