将来に備えて「稼ぐ」「貯める」も必要ですが、ときには思い切って「使う」ことで人生が味わい深いものになることも。趣味に、移住に、推し活にと、ARIA世代らしく人生を謳歌する女性たちは、収支のバランスをどう考えながら、何にお金を投入しているのでしょうか。人生を豊かにする「楽しいお金の使い方」を探ってみました。

 お金との付き合い方、自分にとって有意義だと思う使い方は人それぞれ。そこでARIAでは、読者の皆さんに「楽しいお金の使い方」について聞きました。どんなことにまとまったお金を使い、お金を使ったら人生にどんな変化が生まれたのか。寄せられた回答の中から個性豊かなお金の使い道をピックアップして、2回に分けて紹介します。

いつも全力で家族を応援、初めて挑んだ「自分の夢」

 「最初に本の話をもらったときはびっくりしましたが、素人なりに自分の思いを込めた文章を書けた手応えはあったんですよね。それで思い切ってやってみることにしました」

 福岡市で看護師をしている川口美佳さん(58歳)は今年7月、家族の物語をつづった本を出版しました。きっかけは昨年、「人生は十人十色」をテーマにした文章を募集するコンテストの告知を新聞で見て応募したこと。川口さんは夫(61歳)と長男(29歳)、長女(25歳)の4人家族(現在、長男は結婚)。夫と子どもたちにはそれぞれに夢や目標があり、家族がお互いに協力しながら実現することができたので、それを文章に残したいと思ったそうです。

 「息子は小学6年生からラグビーを始め、大学ラグビーの名門、明治大学に入ることを目指していました。そして並々ならぬ努力の末、明治大学に入学し、ラグビー部で活躍することができました。

 そんな息子をつきっきりで支えていたのが夫で、ケガをしては手術やリハビリを繰り返す息子を見ているうちに、もっと専門的にサポートがしたいと、43歳のときに脱サラ。アルバイトをしながら4年間専門学校に通い、作業療法士になりました。会社をやめたいと相談されたときは不安もありましたが、私も看護師として安定した収入がありましたし、何より『人生は一度きり』。そこまでしてやりたいことなら応援しようと思いました。

 娘は小さい頃から絵が好きで、中学3年生のときから美大受験を見据えて予備校に通い始めました。2浪の末に目標だった東京芸術大学美術学部に合格。日本画を専攻し、現在は大学院でさらに研さんを積んでいます」

 応募作品は入賞こそなりませんでしたが、川口さんは後日、コンテストを主催する出版社から「内容がとてもよかったので本を出しませんか?」と声をかけられました。出版にかかる費用は出版社と筆者の双方が負担する形で、提示されたのは軽自動車が買えるくらいの金額。今まで自分のことにそこまでのお金を使ったことはありませんでしたが、「これまでずっとみんなの縁の下の力持ちで頑張ってきたのだから、今度はお母さんがやりたいことをやってみたら」と家族に背中を押され、本の出版を決めました。

家族の歴史と思いがつまった本『夢射る者 私が見てきた家族の奇跡』(文芸社)を出版した川口美佳さん。表紙の絵は、東京芸大大学院で日本画を学ぶ娘の富裕実さんが川口さんを描いたもの(写真提供/川口さん)
家族の歴史と思いがつまった本『夢射る者 私が見てきた家族の奇跡』(文芸社)を出版した川口美佳さん。表紙の絵は、東京芸大大学院で日本画を学ぶ娘の富裕実さんが川口さんを描いたもの(写真提供/川口さん)