仕事をするのは定年まで、というのは過去の話。その先の長い人生を楽しく前向きに過ごすためにも、年齢で区切らず仕事を続けたいと考える人も多いでしょう。でも、実際のところ60代、70代でどんなふうに働き続けられるの? 体力的に厳しくない? そんなモヤモヤが浮かんだときにヒントをくれるのが、一足先を行く人生の先輩です。「今の自分がやりたい仕事」を自然体で続けている65歳以上の女性たちを紹介します。

 仕事を終えてくつろぐひとときに私たちを楽しませてくれる、華やかなテレビドラマの世界。その魅力や奥行きを陰で支えるのが、登場人物が身に着ける洋服をコーディネートするスタイリストです。西ゆり子さんは、『セカンドバージン』『ファーストクラス』『家売るオンナの逆襲』など数多くの人気ドラマでヒロインのスタイリングを手掛ける、「ドラマスタイリスト」の第一人者。「スタイリングを通してキャラクターを表現できることが本当に面白い」と、70歳の今も精力的に活動している西さんにお話を聞きました。

西ゆり子
西ゆり子
1950年生まれ。74年にスタイリストとして独立。雑誌や広告のスタイリングを経て、テレビ番組におけるスタイリストの草分け的存在となる。特にドラマのスタイリングを数多く手掛け、『ギフト』『のだめカンタービレ』『セカンドバージン』『家売るオンナの逆襲』など、25年以上にわたって150以上の作品を担当。現在は着こなしをテーマにした企業研修や、個人向けのスタイリングレッスン「CoCo Styling Lesson」なども行っている。著書に『ドラマスタイリストという仕事』(光文社)。

「テレビの仕事やってみる?」「はい!」で雑誌から転身

編集部(以下、略) 西さんが携わったドラマをいくつも見ていましたが、どれも主人公の服装が、そのキャラクター像とあいまって今も印象に残っています。ドラマスタイリストというのは、どのように作品に関わっていくのでしょうか。

西ゆり子さん(以下、西) 主にメインの出演者のスタイリングを手掛けるのですが、私の場合は女優さんが多いですね。仕事の流れとしては、放送が始まる1~2カ月前、ある程度ドラマの台本が出来上がった段階で依頼が来ます。そこから、監督が表現したいキャラクターにふさわしいスタイリングを一緒に考えて、衣装を準備。撮影が始まったら毎回現場に立ち会います。ただ、今はずっと撮影現場にいることはありません。最初に衣装のスタイリングプランをつくるところと、最初の衣装合わせだけは必ず私がやって、後は信頼できるスタイリストやアシスタントに任せることも多いです。

 ドラマの撮影スケジュールは、今でこそ働き方改革もあってだいぶ改善されましたが、昔は予定通りに終わることはまずなかったですね。夜中の0時を業界用語で「てっぺん」と言うのですが、朝から撮影が始まって夜になり、てっぺんを超えても普通に続いていきました。撮影が終わって衣装を片付けたらほとんど明け方。衣装部屋でちょっと仮眠したらもう「翌日」のスケジュールに入っていく感じで、家に戻らないことも結構ありました。

―― 体力的にも本当にハードなお仕事なのですね……。西さんはもともと、雑誌でスタイリストのお仕事を始めたそうですが、なぜテレビの世界へ移ることになったのでしょうか。

西 本当にたまたまなんです。子どもの頃から洋服が大好きなことだけは一貫しているんですけど、私、好奇心旺盛なので、30代の頃に「テレビの仕事をやってみませんか?」と声をかけてもらって、「はい!」と。昔から父に「何か聞かれたら、返事は『はい!』って言いなさい」と言われていたからなんですけど(笑)。

 ただその頃は、自分がすてきだと思わないにもかかわらず、常に流行の服でコーディネートすることを求められる雑誌の仕事に、自分自身の中で葛藤を抱くようになっていた時期でもありました。

 そうして実際にテレビの仕事をやってみたら、意外な発見があったんです。