業績が好調なのに早期退職者を募集する企業が増えています。社内評価が高くても、事業転換や人員構成見直しのために退職を促されることが珍しくない時代。主なターゲットは45歳以上のARIA世代です。突然訪れるそのときに会社を去るにせよ残るにせよ、納得いく判断ができる人には、共通して日ごろの備えがありました。取材したARIA世代の実例を基にお伝えします。

 今回の早期退職特集では、退職を募集するタイミングで社外に出ることを選んだARIA世代の3人のケースを紹介してきた。同じようなキャリア転換を考えている人には、参考できる点が多くあっただろう。

 その一方で、早期退職が募集されても、家族の事情や経済的な理由などから、「会社を辞める」という判断をしない人、できない人もいるだろう。この場合は、日ごろからどんな備えをしていればいいのか。

 今回登場する、ノーリツ鋼機で長年財務・経理を担当してきた形部由貴子さん(49歳)も、会社に残る判断をした一人だ。ペン先部材の製造や医療データ分析事業など多様な事業会社を子会社に持つ同社は、東京・麻布に本社を置く。現在、執行役員・経営管理本部長として活躍する形部さんは、生まれ育った和歌山の有力企業であるノーリツ鋼機が成長して上場を迎えた日も、会社の主力事業が縮小して初めて早期退職が募られたときも、会社が大胆にビジネスモデルを転換していく過程も、全て財務・経理という仕事を通して会社を見つめて、共に歩んできた。

ノーリツ鋼機本社で執行役員・経営管理本部長として活躍する形部由貴子さんは和歌山県出身。「2015年に東京に来るまでは、生まれ育った和歌山を出たことはありませんでした」
ノーリツ鋼機本社で執行役員・経営管理本部長として活躍する形部由貴子さんは和歌山県出身。「2015年に東京に来るまでは、生まれ育った和歌山を出たことはありませんでした」

 時代の流れとともに会社を取り巻く環境が激変するなかで、形部さんはなぜ会社に残り続けてきたのか、そして会社からも必要とされてきたのはなぜか。何を意識して普段から仕事をしてきたのか。形部さんのキャリアヒストリーをたどりつつ、次ページから答えを見つけていく。