業績が好調なのに早期退職者を募集する企業が増えています。社内評価が高くても、事業転換や人員構成見直しのために退職を促されることが珍しくない時代。主なターゲットは45歳以上のARIA世代です。突然訪れるそのときに会社を去るにせよ残るにせよ、納得いく判断ができる人には、共通して日ごろの備えがありました。取材したARIA世代の実例を基にお伝えします。

 製薬業界は、早期退職募集を実施する企業が急増した業界の一つだ。2018年から2019年にかけて、エーザイ、協和発酵キリン、アステラス製薬、中外製薬と続いた。その多くがMR(医学情報担当者)などの営業部門や管理部門を中心に人員を削減している

 外資系大手の製薬会社・ノバルティス ファーマでMRとして働いていた土光雅代さん(40歳)も、2018年に同社で実施された「ネクストキャリアサポートプログラム」(早期退職優遇制度)に応募して2019年3月末に退職した。現在は、介護業界の人材不足の改善を目指し、介護施設と単発でバイトするスキマワーカーとをマッチングさせる『Sketter(スケッター)』を運営しているスタートアップ「プラスロボ」で、セールスマネジャーとして活躍している。

土光雅代さん
【ライフスタイル】DINKS
【以前の業種/職種】製薬/MR(医学情報担当者)
【早期退職応募時の年齢】40歳
【早期退職の優遇条件】退職金に年収の2.3年分を割り増し(年齢で異なる)
【通達から退職までの期間】約3カ月
【現在の職業】スタートアップ「プラスロボ」セールスマネジャー

 「ITの導入と扱う製品の変化によって、業界全体にMRの人材が余っていることが分かっていたので、いつか自分も対象になる日がくると思っていた」という土光さん。「転職後、年収は大幅に減ったけれど、それ以上に得たものは大きい」と悲壮感は全くない。「のるか、そるか」で積極的に勝負を仕掛けた。

 土光さんは、何を考え、どんな準備をしていたのか。スタートアップへの転職を選んだ理由は。お金の不安はなかったのか――将来に悩むARIA世代なら質問攻めにしたくなるだろう。土光さんの新しい仕事観や実践してきたことには、今後のキャリアを考える上で参考になるヒントが詰まっている。

通達から約2カ月は怒涛のスケジュール。「職場はとてもざわついていた」という
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土光さんが迷わず手を挙げることができた理由が分かる。ただ、いずれも特別なことではないのがポイント
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