リモートワークが拡大するなど働き方が変化し、住まいへの関心は一気に高まりました。一方、どこに住むのか、買うのか借りるのか、地方の実家の空き家問題はどうするのかなど、40~50代のARIA世代特有の「住まい」の悩みは尽きません。唯一の正解はないこのテーマについて、自分なりの答えを見つけた経験者や識者とともに掘り下げます。

 人生後半の住まい選びの中には、今の持ち家に住み続けることも当然選択肢に入ってくるでしょう。その場合、家をリフォームすると、これからの暮らしがぐっと便利で快適に変わるかもしれません。動線や収納を整えたり、思い切って間取りを大きく変えたり。50代以降の住まいのリフォームを数多く手掛けている1級建築士の水越美枝子さんに、これからリフォームを考えるに当たってポイントとなる点を、事例を交えて聞きました。

子育て終了後は「うまくすれ違える家」でお互い自由に

 「リフォームのきっかけは人それぞれですね。例えば退職金が入るのと同時期に子どもも独立したので、夫婦2人の暮らしに合わせて住まいを見直そうと考える方は多いです。あるいは、子どもが結婚して家族を連れて帰ってくるようになるので、キッチンやリビングダイニングを大人数で使いやすいようにするケースもよくあります」。ミドル世代、シニア世代がリフォームを考える動機について、水越さんはこう話します。

 ライフスタイルは多様化していますが、水越さんが手掛けている案件からは、ある共通点が見えてくるといいます。それは、「家の中でそれぞれの居場所をつくることが、居心地のよさにつながる」ということ。「例えば、リビングダイニングの中にパソコンコーナーがあれば、家族の誰かがそこでちょっと仕事ができますよね。そういうささやかな居場所づくりはずいぶん前から提案していて、新型コロナウイルス禍でリモートワークになって、『リフォームのときに作ったカウンターがすごく役立ちました』と言われることは多いです」

 また、子育てが終わった夫婦の8割以上が、リフォームに当たって別々の部屋を持つことを希望するそう。下の図面は、使わなくなった子ども部屋の場所を活用して、夫婦別々の寝室を設けた夫婦のケースです。

以前は和室に布団を敷いて寝ていたが、子ども部屋をなくして夫婦それぞれの寝室を設けた
以前は和室に布団を敷いて寝ていたが、子ども部屋をなくして夫婦それぞれの寝室を設けた
2つの寝室の間は引き戸で仕切られているので、一方が体調の悪いときなどは開けておくこともできる
2つの寝室の間は引き戸で仕切られているので、一方が体調の悪いときなどは開けておくこともできる

 「夜遅くまで好きな映画を1人で見てもいいし、逆に早寝早起きでウオーキングを日課にしてもいい。ご飯はできるときにできるほうが作り、好きなときにコーヒーを入れて飲む。キッチンやリビングダイニングはパブリックな場として使って、あとはプライベートな空間で自由に過ごす。皆さんの住まいに対する希望をひもといていくと、こうした『シェアハウス型のリフォーム』に行き着くことが多いです

 これから年齢を重ねていけば、家の中で過ごす時間は今よりも長くなっていくでしょう。そうしたときに夫婦が円満に暮らす秘訣は、それぞれの自由が尊重される場所があること。「子育ても終わったのだし、これからはそれぞれ好きに過ごしましょうよ、という思いが潜在的にあるんですよね。それをかなえる1つの方法として、『うまくすれ違えるような空間づくり』を提案しています」