リモートワークが拡大するなど働き方が変化し、住まいへの関心は一気に高まりました。一方、どこに住むのか、買うのか借りるのか、地方の実家の空き家問題はどうするのかなど、40~50代のARIA世代特有の「住まい」の悩みは尽きません。唯一の正解はないこのテーマについて、自分なりの答えを見つけた経験者や識者とともに掘り下げます。

 空き家問題は社会全体の課題である。すでに自分ごととして直面している人も多いのではないだろうか。何をどうすればいいのか、誰に相談すればいいのか、分からないことだらけのこの問題について、空き家に関わる総合窓口を運営するNPO法人、空家・空地管理センター代表理事、上田真一さんに詳しく話を聞いた。

実家の空き家問題、全国で急増中

編集部(以下、略) 空き家となった実家をどうするか悩んでいる人は増えていると感じますか?

上田真一さん(以下、上田) 空家・空地管理センターに相談に来るのは、空き家を所有している人や、実家を相続する前後の人たちです。毎年相談件数が増えて、2021年は2000件にのぼっています。

 相談の多くは「何から手を付けていいか分からない」という漠然としたもの。そうした人にはまず、実家の処分を考える上で、主に3つの整理が必要だとお伝えしています。

 1つ目は心の整理。親が建てた家や家財を処分することに罪悪感を抱く人が多いのです。前に進むために自分の気持ちを納得させるのは本人にしかできないので、慌てずしっかり悩みましょうと伝えています。

 もう1つは物の整理。家財の処分だけでなく、庭の木を切ったりすることも含まれます。最後はきょうだいや親族との意見の整理。きょうだいがいなかったとしても配偶者や子どもとの調整も必要です。1回の話し合いで利害関係者全員が納得する結論に達することはまずありません。何度も話し合うプロセスはストレスですが、必要なことなので時間をかけてやりましょう。

 この3つの整理が終わって初めて空き家の活用が具体的に動き始めます。逆に、この3つの整理ができていないと、問題が長期化してしまうことが多いです。

―― 失敗しない実家処分のためにどのように進めればいいのでしょうか。

上田 いきなり「売る」とか「売りたくない」と結論づけるのでなく、段階を踏んで1つ1つ判断していくほうがいいです。建物を残したいのかどうか。残すならリフォーム費用や固定資産税がかかります。建物を諦めるなら、土地は残すのか、投資はどれくらいできるのか、貸し出すなら賃貸経営のリスクはどの程度許容できるのか、という具合です。段階を踏むことで心の整理も進みますよ。

 その上で計画を立てる。1年後に売却を完了するという目標を立てたら、最初の1~2カ月で遺品整理をする。不動産会社はいつまでに決めるのか、販売活動期間はどれくらいを見込むかなど見通しが決まれば、その間のコストも売却までの必要経費と割り切れます。

 本当は親が元気なうちに方針を親子で話しておければいいのですが、多くのケースで遺言書が残されていません。子どもからは切り出しにくい話題ですが、「この家をどうしてほしい?」と聞いてみるといいです。「庭の管理はどうしてるの?」と家に関する会話をしていくことで、親のほうから言ってくれることもあるかもしれません。

 また、もしも認知症になって本人が意思決定できなくなると、施設に入るお金が必要でも家を売却できなくなるため、前もってそのリスクを理解してもらった上で任意後見制度を利用し、決定権を持つのも一つの方法です。親の意向を絶対守らないといけないという思いに縛られると大変ですから。

 また、親の遺産相続が終わった時点で、自分に子どもがいる場合は相続について子どもに話しておくといいです。まだ死が身近に感じられない段階で、「自分たちが死んだら家を売っていいよ」と、その一言があるだけで、いずれ同じ問題に直面する子どもの罪悪感は激減します

空き家になった実家、維持は大変だけど簡単には売れず……(写真はイメージ)
空き家になった実家、維持は大変だけど簡単には売れず……(写真はイメージ)