ポストコロナをしなやかに生きるために必要なスキルの一つは、レジリエンスです。近年、急速に注目を集める概念で、想定外の困難や大きな失敗に直面しても「普段の心の機能を維持させる役目」を意味します。では、どうすれば私たちはレジリエンスを鍛えることができるでしょうか。専門家や、あまたの困難を乗り越えてきた百戦錬磨の経営者たちから学びます。

アマゾンに住む部族にレジリエンスのヒントあり?

 レジリエンスの高い職場やチームについて分析をすると、「ブリコラージュ」という共通点が浮かび上がってきた、と記した論文があります(2011年発表)。あまり聞き慣れないこの言葉、皆さんはご存じでしょうか?

ブリコラージュ

問題が生じた際に、手元にある材料や道具の寄せ集めで対処すること
フランスの人類学者レヴィ=ストロースが唱えた概念

 レヴィ=ストロースが関心を寄せたのが、アマゾンに住む未開部族の物作り。必要なものをあり合わせの素材で作るスタイルを「ブリコラージュ(器用仕事)」と呼び、文明社会のエンジニアリング的な物作りと対比しました。私たちはきちんとした設計図と素材、そして技術がないと物を作れないと思い込んでいますが、そんなものがなくても未開部族の彼らは不自由なく暮らしていることを指摘。つまり、未開社会にも文明社会に匹敵するような合理的な思考が存在することを示したのです。

 「ブリコラージュには、危機を乗り越えることができる『レジリエンスが高い組織』をつくる上でのヒントが隠れている」と武蔵野大学経営学科の准教授・宍戸拓人さんは言います。そのヒントとはいったい何なのでしょうか。詳しく教えてもらいました。

レヴィ=ストロースは、アマゾン川流域でフィールドワークを重ねて未開社会を構造主義的アプローチで分析。1960年代に世界の思潮をリードしていたサルトルの実存主義を真っ向から批判し、構造主義の時代への扉を開いた(写真はイメージ)
レヴィ=ストロースは、アマゾン川流域でフィールドワークを重ねて未開社会を構造主義的アプローチで分析。1960年代に世界の思潮をリードしていたサルトルの実存主義を真っ向から批判し、構造主義の時代への扉を開いた(写真はイメージ)
レジリエンスを高めるためのブリコラージュは?/1 役割の更新や入れ替え/2 ルーティンの組み替え/3 仕事の順番の入れ替え/ブリコラージュを行える組織にするために必要なプロセスは?/1 仕事についてオープンに話す/2 仕事を強化し合う/3 専門をまたいだ経験と理解を得る
組織のレジリエンスは一朝一夕に高まるものではありません。では、どのようなプロセスが必要か。宍戸先生が解説します
組織のレジリエンスは一朝一夕に高まるものではありません。では、どのようなプロセスが必要か。宍戸先生が解説します

極端にレジリエンスの高い組織は?

 ベッキーとオキューセンという二人の経済学者が2011年に発表した論文に「危機に瞬時に対応できるチーム」について分析したものがあります。

 この論文では、予測できない出来事が次から次へと起こるような状況においても迅速に対応し、高いパフォーマンスを上げた組織について調査しています。いわば、極端にレジリエンスの高い組織はどこか、と。代表例として挙がったのが、米国の警察の特別機動隊(SWAT)と映画製作チームです。そして、その職場を分析すると、レヴィ=ストロースが提唱したブリコラージュという概念が鍵になっていると論じています。

※Bechky, B. A., & Okhuysen, G. A. (2011). Expecting the unexpected? How SWAT officers and film crews handle surprises. Academy of Management Journal, 54(2), 239-261.