ポストコロナをしなやかに生きるために必要なスキルの一つは、レジリエンスです。近年、急速に注目を集める概念で、想定外の困難や大きな失敗に直面しても「普段の心の機能を維持させる役目」を意味します。では、どうすれば私たちはレジリエンスを鍛えることができるでしょうか。専門家や、あまたの困難を乗り越えてきた百戦錬磨の経営者たちから学びます。

 星野リゾート代表の星野佳路さんは、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、今では42の施設を運営する観光業界のリーダーです。変化が激しい観光業界で、時に逆境をものともせず新しい業態を次々と生み出し、会社を成長させてきた星野さんに、どのようにしてレジリエンスを高めてきたのか、その極意を聞きました。

星野佳路(ほしの・よしはる)星野リゾート代表
星野佳路(ほしの・よしはる)星野リゾート代表
1960年生まれ。83年、慶応義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。91年に先代の後を継いで星野温泉旅館(現・星野リゾート)代表に就任。所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略を取り、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。現在「星のや」をはじめ国内外42施設を運営する

 細かな失敗と、そこからの学びの繰り返しが「経営」だと思います。星野リゾートの社内でも小さな失敗はたくさんあって、そこから学んでいるからこそ、現在に至る成長につながっていると思っています。

 今までのビジネスを振り返ると、これといった大きな失敗は思い浮かびませんが、苦労はありました。1991年、私が「星野温泉」の社長に就任した頃の話です。当時は古い温泉旅館で集客力はなく、それ以上にリクルート(求人)力がありませんでした。良い人材に入社してもらうことが、なかなかできなかったのです。良い社員がいないと企業の成長は望めませんから、私の経営人生で最も大変だった時期だと思います。

企業説明会に学生が来なくても、悲観的にならなかった

 20年以上前、星野リゾートとして求人雑誌に広告を出して、合同企業説明会に出展しました。そこでカウンターテーブルを出して学生を待っていても、誰も来てくれませんでした。隣にある製造業のブースを見ると、たくさん人が並んでいたので、その人たちに「椅子を貸すから、帰りにちょっと寄ってね」と声をかけるようなときもありました。

 ただ、そんな状態でも決して悲観的にはなりませんでした。人気のない業界で仕事をしているので、リクルーティングで苦労するのは当たり前だと思っていましたから。そこで、どうしたら星野リゾートが入社する価値のある企業に見えるのかを、一生懸命考えました。

星野佳路さんのレジリエンス3カ条。1)苦労しても決して悲観的にならない。対策を考える。2)経営に必要なのは、新しい状況に直面したときの対応力。3)変化する環境に受け身にならず、自ら変えていく