2021年にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、改正会社法で社外取締役の設置が義務化され、社外取締役に女性が選ばれるケースが増えています。管理職や役員に女性がなかなか増えない日本企業で、女性の社外取締役が誕生すると何が変わるのか。これから社外取締役を目指したい人は、どうすれば道が開けるのか。現役の女性社外取締役へのインタビューやマッチング市場の取材から、最新情報をお届けします。

 サントリーホール総支配人の折井雅子さんが初めて社外取締役に就任したのは大林組。1つの企業でじっくりキャリアを磨いてきた人が、全く別の業界の社外取締役になることで、業界の暗黙知というフィルターを通さない新鮮なまなざしで見られることこそが彼女の武器だといいます。

サントリー芸術財団 サントリーホール総支配人 折井雅子
サントリー芸術財団 サントリーホール総支配人 折井雅子
おりい・まさこ/1983年東京大学文学部卒業後、サントリー入社。酒類製品の開発を多数手がけ、2000年、マーケターとして初めての女性課長に。02年お客様コミュニケーション部長などを経て、12年サントリーホールディングス(HD)執行役員。16年サントリーウエルネス専務取締役に就任。19年にサントリーホール総支配人に。20年より大林組の、21年より東宝の社外取締役に就任

一社で積み上げたキャリアでも、所属部署が変わるたび新たな視点を培った

編集部(以下、略) サントリーひと筋でキャリアを築いてきた折井さんが、他社の社外取締役を引き受けた経緯を聞かせてください。

折井雅子さん(以下、折井) はい、確かに私はサントリーひと筋なのですが、その中でもさまざまな仕事に携わってきました。1983年にサントリーに入社したときは、マーケティング室に配属されました。

 当時は男女雇用機会均等法施行前で、女性はお茶くみをするのが当たり前の時代を経ながら少しずつ商品開発に携われるようになっていき、2000年にマーケティング部門で女性初の課長として、清涼飲料事業で「なっちゃん」や「CCレモン」のブランド育成に携わりました。

 02年にお客様コミュニケーション部で部長職に就きました。それまでは顧客のことを理解しているつもりで仕事をしていたのですが、生の声に触れることで、企業と顧客の視点の違いに気づかされました。

 そこで顧客の声をもっと理解するためのVOC(Voice of Customer)活動という取り組みを始めました。企業側が顧客はこう受け止めてくれるだろうと提供するものと、実際の顧客の受け止め方は必ずしも同じではありません。具体的な事例を紹介して、企業目線でなく顧客目線で考えなければならないという認識を深める取り組みです。

 12年にサントリーHDで生え抜きの女性初の執行役員としてCSRなどを担当しました。東日本大震災の後でしたのでサントリーの復興支援活動に携わり、水産高校生への奨学金など、漁業や子どもを支援するさまざまな活動のために何度も被災地へ足を運び、いろいろな人に出会って企業が社会にできることは何かを考えました。

 また、人事部門で社員の人材育成や企業文化の浸透などを担当しました。それまでは企業から社会に視線を向ける仕事だったのが、企業の中を見る仕事になって、視点が変わったことで気づくことがたくさんありましたし、キャリアについて学ぶ機会を得ました。

 16年にサントリーウエルネスの専務取締役になり、19年に退任してサントリーHDの顧問となってサントリー芸術財団でサントリーホールの総支配人をしています。

―― 20年から大林組の社外取締役を務めていますが、どんなきっかけがあったのですか?