仕事人生以外の人生を豊かにしてくれるのは、自分が持っているコミュニティです。会社を卒業したら毎日何をする? 将来、誰かの助けが必要になったら? 災害時の備えは? 頼れるのは遠くの親戚より近くの他人。40代から地元にコミュニティを築く方法を考えます。

 「恵比寿新聞」の名前をご存じだろうか。「東京・恵比寿の粋な情報を発信するWEBマガジン」として、飲食店の店主と看板メニュー、解体された古民家の歴史、祭りなどのイベント情報や、行方不明のペットに関する情報まで、地域に密着した情報をWEBサイトやSNSを通じて発信している。時には暑苦しいほどの熱量で地元情報を伝えているのが、1人で運営している編集長の髙橋賢次さんだ。新聞の読者は10万人、フェイスブックのフォロワーは2万5000人と立派なメディアに育った今も、中立性を保ちたいからと広告は取らず、閲覧は無料。とはいえ、家族もいる髙橋さんにとって、新聞の発行は趣味や副業ではなく、あくまで本業だ。……一体どうやって運営しているの? そもそも、何のために? 詳しく聞いた。

東京・恵比寿の粋な情報を発信するWEBマガジン「恵比寿新聞」
東京・恵比寿の粋な情報を発信するWEBマガジン「恵比寿新聞」

大好きになった女性の生まれ育った町まで好きになった

編集部(以下、略) 「恵比寿新聞」という地域密着型のWEBメディアは、東京・恵比寿という都会で人のつながりを活性化させているそうですね。なぜ恵比寿でメディアを立ち上げようと思ったのですか?

髙橋賢次さん(以下、髙橋) もともと「地元を盛り上げよう、社会貢献したい」というような高い志があったわけではなく、僕が恵比寿のことが大好きだから始めただけなんです。僕の出身は奈良県なんですけどね。

髙橋賢次さん
髙橋賢次さん
1975年生まれ。恵比寿駅から半径2km以内の取材にこだわる地域密着型WEBメディア「恵比寿新聞」編集長。イベントの企画・運営、大学の非常勤講師や渋谷区非常勤職員など活動は多岐にわたる

髙橋 僕は奈良県で育ち、15歳で家出して、未成年なのにDJをやったりしながら東京にたどりつき、都内を転々としていました。

 東京に出てきて10年くらいたった頃、ものすごく好きな人ができたんです。付き合いたいけれどなかなかいい返事をもらえず、何年もアプローチし続けました。そうしてやっとのことでOKをもらえたので、彼女が生まれ育った恵比寿に移り住むことにしたんです。

 そうしたら都会なのに下町の要素もあるし、面白い人がいっぱいいる「東京にもこんなところがあるんだ」という驚きとともに、恵比寿という町にすっかり魅了されたんですよね。