仕事人生以外の人生を豊かにしてくれるのは、自分が持っているコミュニティです。会社を卒業したら毎日何をする? 将来、誰かの助けが必要になったら? 災害時の備えは? 頼れるのは遠くの親戚より近くの他人。40代から地元にコミュニティを築く方法を考えます。

 子育ての過程で出合う身近なコミュニティの1つ、PTA。負担の大きさに何かとスポットが当たりがちで、参加することに消極的な人も少なくないでしょう。そうした中で、「息子と娘が小学校に通っていた計8年間、PTAにどっぷりつかりました。大変だけど本当に楽しかったです」と振り返るのが、EVOL代表取締役CEOで幸福学を研究する前野マドカさんです。前向きなPTA活動を通して学校から地域へと広がった、世代を超えたつながりなどについて聞きました。

前野マドカさん
前野マドカさん
EVOL代表取締役CEO。慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科付属SDM研究所研究員。国際ポジティブ心理学協会会員。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。幸せを広めるワークショップ、コンサルティング、研修活動およびフレームワーク研究・事業展開を行っている。共著に『そのままの私で幸せになれる習慣』(WAVE出版)、『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』(ヴォイス)など。

始まりは、「空気を読んで」引き受けた広報委員

 前野さんが初めてPTAに参加したのは、第1子の長男が小学校に入学した2003年。当時は子育てに専念したいと仕事から離れており、「学校のことを知るには、PTAに参加するのが早道」と、クラス単位で選出される学年学級委員を自ら希望して務めました。

 翌年は、委員を務める気はありませんでした。なかなか委員が決まらず、くじ引きで決めることになったのですが、既に委員を経験していた前野さんはくじ引きへの参加を免除されていました。ところが……。

 「乳飲み子を抱えたお母さんが広報委員を引き当ててしまったんです。『ご迷惑をかけるので、今年だけは代わってください』とその方は言ったんですけど、誰も応じないまま気まずい時間が流れて。つい、『私、去年もやりましたけど、今年もやっていいですよ』と

 そんな流れで務めることになった2年目の委員が、前野さんとPTAとのディープな関わりの始まりでした。

前向きに取り組んでいたら、ある日「スカウト」が…

 全学年から広報委員が集まる広報委員会に参加した前野さんは、そこで何と委員長を引き受けてしまいます。「委員が一言ずつあいさつするときに、私だけが『去年は学年学級委員をやって、すごく楽しかったです』って言っちゃったんですね。そうしたら、『前野さん、委員長どうですか?』って。その場にいる全員から懇願されるように見つめられてしまい、何をするのかよく分からないまま、じゃあもうやります!と言ってしまったんです」

 高学年の先輩ママたちもまとめながら委員長を務めるのは想像以上に大変でしたが、自分なりにアイデアを出して前向きに取り組んだ結果、広報誌などの目に見える成果物を作り上げられたことに大きな充実感を得られたという前野さん。その様子は「あの人、委員会のトップをやけに楽しそうにやっている」と本部役員の目に留まり、役員会に「スカウト」されることに。いくつかの委員会の役職などを経て、最後にはPTA組織のトップである会長を務めるに至ります。

 本部役員になってからの大きな変化が、学校の外の地域との関わりでした。「町内会の運動会や地域のお祭りなどがあると、PTA役員はお手伝いに行くんですね。そこで初めて、町内会の方々の悩みを知ったんです