ARIA世代の働き方を取り巻く環境に、変化が起きつつあります。今の勤務先で70歳まで働き続けることが視野に入る一方、早期退職という選択が頭をよぎる人もいるはず。大企業の人材を地方の中小企業へ流動させる国の政策も本格的に始動しました。私たちには、この先、どんな選択肢があるのでしょうか。around50で「会社を去る」決断をした女性たちのケースも紹介します。

 NTTグループの中で、大学の講義を無料で受けられるオンライン学習のサービスを立ち上げ、51歳でドコモgaccoの代表取締役に就任した伊能美和子さん。ところがその数年後、事業が成長する中で別会社への辞令。いったんは異動して頑張ってみたものの、悩んだ末に32年間勤めた会社を去ることに。その決断の背景と、辞めて見えてきた新しい役割について聞きました。

自分で立ち上げた事業を見届けることはかなわなかった

編集部(以下、略) NTTという大きな企業体の中で、MOOC(大規模公開オンライン講座)などの新しい技術やトレンドをキャッチして、伊能さんはいくつも新規事業を立ち上げてきました。イントレプレナー(社内起業家)として、グループ内転職をしながら創造的に仕事に取り組んできたという印象ですが、会社を辞めようと思ったのは、どういうきっかけでしたか。

伊能美和子さん(以下、敬称略) 会社を辞めるかどうか、2年ぐらいは悩んだ時期がありました。もともとNTTに入ったのは、これからは世の中の課題を通信で解決したいと思ったからです。グループ企業がたくさんあったので、若いときから新規事業をつくれる場所を自分で選んで異動してきました。

 2012年にはNTTドコモに異動し、オンライン学習サービス「gacco」を立ち上げたんです。著名な大学の先生方を巻き込んでJMOOCという団体も発足させ、将来的には学校教育のスタイルを変えたり、大人の学び直しというマーケットを作ったりしたかった。でも、役職定年に伴う人事異動のタイミングが来てしまって。

伊能美和子さん
伊能美和子さん
いよく・みわこ/1987年、日本電信電話に入社。NTTグループの技術を利用して、音楽著作権処理プラットフォーム、クラウド型デジタルサイネージソリューション、日本初MOOC(大規模オンライン講義配信サービス)などのサービスを次々と立ち上げたイントレプレナー(社内起業家)。2019年に退社後、東京電力ベンチャーズに入社。TEPCOライフサービス取締役のほかタカラトミー、ヤマノホールディングス、学研ホールディングスの社外取締役を務める。一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム専務理事

 どういう形でもいいから事業に関わりを持ちたいと伝えたのですが、それも難しく……。この先に思い描いていた構想を自分の手で実現し、見届けることはもうできないんだな、と残念な思いでいっぱいでした。最初はそこで辞めようと思ったんです。gaccoに思い入れが強すぎたんです。

―― 心が折れつつも、そのときは退社を踏みとどまったんですね。次の辞令は子会社、タワーレコードへの出向と副社長就任。世間的に見ればいいポストですが、そのまま続けようとは思わなかったんですか?