社員に身に付けてほしいスキルを企業が再教育する「リスキリング」に本気で取り組む企業が急激に増えています。背景には、デジタルや環境といった知識をあらゆる社員が身に付けると、業務が大幅に効率化されて新しい事業・サービスが生まれると期待されているからです。デジタルネイティブの若手のみならず、ミドルも役職者も待ったなし。リスキリングの今を追います。

今ならギリギリ踏み出せると応募

 「研修公募を見たのはちょうど育休明けで復帰した翌週です。ソフトウエアの開発者へと職種を変えるには、ギリギリのチャンスかなと思って応募しました」と振り返るキヤノン イメージコミュニケーション事業本部ICB開発統括部門ICB開発統括第二開発センターの明神理恵さん。2018年、30代後半で自らリスキリングを希望し、企画部門からエンジニアへと転身、40代となった今、エンジニアとして開発の最前線にいる。

 「育児と勉強を両立できるか悩みましたが、子どもが大きくなるまで待っていては年齢的に遅くなる。興味があって踏み出すならラストチャンスかもしれない」。自身がエンジニアに向いているかは分からないが、適性がなければ面接で落ちるだろうと、ポジティブに考えた。

 それまではプリンタの製品企画や業界のトレンド調査などを担当していた明神さん。「製品にもソフトウエアのウエートが高くなり、AI(人工知能)などが分かっていないと、製品の企画自体も曖昧になってしまう」と職場での課題も感じていた。

リスキリングを行いソフトウエア開発者に職種転換する道を選んだ明神理恵さん(中央)と人材・組織開発センター課長の石川慎也さん(左)、ソフトウエア第二開発センター課長の西巻明美さん(右)
リスキリングを行いソフトウエア開発者に職種転換する道を選んだ明神理恵さん(中央)と人材・組織開発センター課長の石川慎也さん(左)、ソフトウエア第二開発センター課長の西巻明美さん(右)

ソフトウエアの開発量が増大

 キヤノンの中核事業であるカメラや複写機は市場規模が減少傾向にあり、同社はネットワークカメラや医療機器といった新規事業を含めたポートフォリオの転換を急ぐ。さらに、機器に組み込むソフトウエアの開発量が増大し、デジタル技術を駆使できるエンジニアはこれまで以上に必要となっている。新たにエンジニアを採用するだけではなく、若手や中堅社員のリスキリングも視野に入れた。

 「今は時代の変遷や事業構造の変化に合わせて、社員の技術を変換していくことが求められています。より価値を生む仕事をするために、職種転換も含め、学びを続けてスキルアップする姿勢が大事だと思いますし、それを後押しする仕組みを設けています」(デジタルビジネスプラットフォーム開発本部ソフトウエア第二開発センター課長、西巻明美さん)

 「もともとキヤノンには人材を求める部署が社内公募し、希望する社員をマッチングする制度があります。ソフトウエア技術者へのニーズが高まっている中で、この制度をベースに、スキルのギャップを埋めるような研修を行って、異なる職種への異動を可能にしました。振れ幅は大きいですが、チャレンジしてもらっています」(人事本部人材・組織開発センター課長、石川慎也さん)