社員に身に付けてほしいスキルを企業が再教育する「リスキリング」に本気で取り組む企業が急激に増えています。背景には、デジタルや環境といった知識をあらゆる社員が身に付けると、業務が大幅に効率化されて新しい事業・サービスが生まれると期待されているからです。デジタルネイティブの若手のみならず、ミドルも役職者も待ったなし。リスキリングの今を追います。

本業に危機感、経営難を乗り越えるために学び直しに行き着いた

 1906年創業の西川コミュニケーションズは、名古屋市に本社を置く従業員数400人強の企業。情報技術の変化にいち早く対応して、電話帳など紙媒体を中心とした印刷業から、ダイレクトマーケティング、新業態の書店経営などさまざまな業態転換に挑戦。現在は、人工知能(AI)や3Dコンピューターグラフィックス(3DCG)といったデジタル技術を活用したビジネスで業績を伸ばしている。

 将来の収益の柱となり得る新規事業の可能性を探りながら、同時に力を入れてきたのが、従業員のスキルチェンジだ。

 同社のリスキリングを西川栄一社長とともに推進してきた人事・広報課長の神谷昌宏さんは、「弊社では社会環境の変化に対応するために、リストラは行わずリスキリングを優先してきました。さまざまな困難を乗り越えこれまで事業を続けてこられたのは、経営者と従業員がともに危機感を共有し、事業が存続するために必要なスキルを学び続けてきたから」と振り返る。

 経営の軸を新規事業に移していく中で、紙のデザイナーから新規事業の営業担当や3DCGのデザイナーになる、企画営業からAI プランナーになるなど、従業員の大胆な転身事例は珍しくないと神谷さん。学び直しの意識をどのように浸透させ、学ぶ環境をどうつくり、スキル習得に消極的な人にはどうアプローチしたのか、リスキリング成功のポイントを聞いた。

「経営転換途上での失敗経験は多く、さまざまな可能性を探る中で残ったのが現在のデジタル事業です。リスキリングの取り組みにより従業員の負荷は大きくなるので、各自の参加意欲や学びの姿勢が不可欠。中小企業ならではの機動力と細やかな学びのバックアップを行うことで、社内全体にリスキリングの意識が浸透しました」(神谷さん)
「経営転換途上での失敗経験は多く、さまざまな可能性を探る中で残ったのが現在のデジタル事業です。リスキリングの取り組みにより従業員の負荷は大きくなるので、各自の参加意欲や学びの姿勢が不可欠。中小企業ならではの機動力と細やかな学びのバックアップを行うことで、社内全体にリスキリングの意識が浸透しました」(神谷さん)
 <西川コミュニケーションズ リスキリング施策のポイント> 1 リストラは行わず、リスキリングを優先 2 スキルチェンジに全社で取り組み、学習費は会社が手厚く支援 3 同じ目的で学ぶ人を○○にする、○○も認めるなど、脱落者を出さない工夫 4 社長が率先して資格に挑戦する、全従業員に課題図書を配るなど、学び直しの姿勢を意識づけ 5 あえて○○化はせず、必要なリスキリングには惜しみなく投資する
記事の後半では、同社でリスキリングに取り組む社員2人の声も紹介