社員に身に付けてほしいスキルを企業が再教育する「リスキリング」に本気で取り組む企業が急激に増えています。背景には、デジタルや環境といった知識をあらゆる社員が身に付けると、業務が大幅に効率化されて新しい事業・サービスが生まれると期待されているからです。デジタルネイティブの若手のみならず、ミドルも役職者も待ったなし。リスキリングの今を追います。

 最近よく目にする「リスキリング」という言葉、主にはIT系の新たなスキルを習得することをいうのだとはなんとなく分かるけれど、何を目指してどんなスキルを学べばいいのかイメージできない人も多いのでは。リスキリングとは何か、企業の取り組みの現状から個人ができることまで、リクルートワークス研究所 大嶋寧子さんに丁寧に解説してもらった。

DXの時代に新しい仕事に移行するのがリスキリングの目的

編集部(以下、略) リスキリングの定義について教えてください。

大嶋寧子さん(以下、大嶋) リスキリングは2010年代後半から使われてきた言葉で、日本では2021年に入ってから多く目にするようになりました。文字通り「スキルをもう一度身につけること」という意味ではありますが、現在注目されているのは、デジタル化とともに生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わる職業のためのスキルの習得、という文脈で使われるようになっているためです。

 学び直しという意味でリカレント教育と同じように扱われることがありますが、別の概念です。リカレント教育は、社会人になっても学ぶ時期と働く時期を繰り返しながら仕事で求められる能力を磨き続けましょうというもの。対してリスキリングは、新しい職業に就くために、あるいは今の職業で求められる能力が全く変わるときに、ちゃんと適応しながらこれまで通り価値を生み出していけるよう仕事をしながら必要なスキルを獲得すること、または獲得させることを指します。

 ここでいうスキルは主にデジタル分野のことをいいますが、最近はグリーンリスキリングのような環境負荷軽減に関わる分野にも使われることがあります。いずれにしても、今後仕事で必要とされるスキルと今あるスキルのギャップを埋めるために、新たなスキルを身につけること。それがリスキリングです。

社員のデジタルスキルが企業の命運を分ける

―― 今、多くの企業が注目する理由は何でしょう。

大嶋 世界的な関心が高まった背景には、このままリスキリングを行わなければ自動化によって大量の失業が発生してしまうという危機感が強まったことが挙げられます。世界経済フォーラムが2018年以降毎年この問題を取り上げ、国際機関や各国の教育機関とともに、どう取り組むかを探ってきました。

 2020年に世界経済フォーラムが出した数字では、今後8500万人の雇用がAIや自動化に置き換わって消失するが、その一方で9700万人分の新たな雇用が生まれるとされています。新しい仕事への移行のため、官民一体となってリスキリングに取り組まなければならないという課題が明らかになりました。

 企業が注目する理由は、デジタルがもたらす可能性と脅威に真剣に向き合って、デジタルを使って事業を変革しなければならない状況にあるからです。デジタルを活用すれば仕事のプロセスは変わります。例えば営業の仕事でもデジタルツールで顧客情報を分析して、データを踏まえて個別の対応を検討するようになります。あらゆる場面でこれまでと対応が変わる。そういった変化に従業員が追いつかなければDX(デジタルトランスフォーメーション)がおぼつかなくなるわけです。

 大企業にも社員全員のリスキリングを行うと宣言している企業は増えてきていて、もはや一部のデータアナリストやシステム開発を行う人だけではDXは実現できないということを認識しているのです。