生活習慣、人間関係、仕事……長く続けていることほど、やめるのは難しいものです。そうして知らず知らずのうちに、抱える「荷物」が増えていませんか? やめることは決して後ろ向きな行動ではなく、むしろ身軽になって、自分が大事にしたいことがよく見えるようになります。実際に「やめること」で人生に新たな展開が生まれ、働き方や生き方の風通しがよくなった人たちに話を聞きました。

 元祖ノマドワーカーとして、数多くのメディアで活躍してきた作家・コメンテーターのアンドウミフユ(安藤美冬)さん。SNSを駆使し、個人が影響力を持って仕事を生み出す「新しい働き方」を切り開いたパイオニアでもあります。そんなアンドウさんが2018年にすべてのSNSアカウントを停止。約750日間、SNSをはじめ、ネットから距離を置く生活を送っていたと言います。SNSをやめる背中を押した岡本太郎の一言とは? そして、やめるまでの苦労やそこから得たものとは?

長時間、SNSに費やしている自分が怖くなった

編集部(以下、略) かつて「SNSの女王」とも評され、インフルエンサーとしても活躍してきたアンドウさん。SNSをやめたきっかけとは何でしょう。

アンドウミフユさん(以下、アンドウ) そもそも私がSNSを始めたのは2010年頃。TwitterやFacebook、ブログを中心に自身の思いや考えを発信していったところ、多くの人の目に留まり、そこからテレビ出演をはじめ、雑誌・Webの連載、講演などさまざまな仕事のチャンスに恵まれました。

 今でこそSNSを活用したセルフブランディングの戦略は一般的になっていますが、当時はその黎明(れいめい)期と言える時代だったのではないかと思います。フォロワー数はTwitterだけでも5万人を超え、毎日のようにフォローやメッセージが押し寄せる。SNSを見ること、発信することが生活の大部分を占めるようになりました。

 それが2017年に入った頃に、ハッと気づいたんです。「私、なんでこんなにSNSやネットに時間を費やしているんだろう?」と。

 SNSで発信したり、相手にリプライしたり、なんとなくタイムラインを眺めたり。その上、仕事相手とのメールのやり取りも含めて、ネットにつながっている時間が1日6時間を超える日もあったんです。

 6時間ということは1日24時間の4分の1です。1年にすると365日のうちの100日近くをSNSやネットの世界に費やしているんだなって、ある時我に返って怖くなった。その時に、ネットから距離を置こう、SNSをやめようという気持ちが湧き上がったんです。

アンドウミフユ 作家、コメンテーター
アンドウミフユ 作家、コメンテーター
1980年生まれ、東京育ち。著書累計20万部。慶応義塾大学卒業後、集英社に入社。7年目に独立し、本やコラムの執筆をしながら、パソコンとスマートフォンだけでどこでも働ける自由なノマドワークスタイルを実践。「情熱大陸」「NHKスペシャル」などメディア出演多数。近著に『つながらない練習』(PHP研究所)、『新しい世界へ』(光文社)などがある

―― アンドウさんにとって、いわば仕事の生命線とも言えるSNSをやめるのには勇気がいったのでは?

アンドウ そうですね、かなり葛藤しました。SNSで仕事をつくっていくことは自分のアイデンティティーそのものであり、最大の武器でもありましたから。