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久しぶりに会う親。優しくしたいのに、あれこれ世話を焼いてくるのをうっとうしく思ったり、食べ物を持たせてくれようとするのを嫌がってしまったり――。でも、「あのときこうしていれば……」と悔やむ日が来るかもしれません。信友直子さんはドキュメンタリー映画の監督。帰省するたびに撮ったご両親の日常を、「元気だった70代の頃の映像を残せてよかった」と振り返ります。その理由とは?
仕事の練習台として父母の日常を撮り始めた
2018年の秋に公開された映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、年老いていく両親の姿を記録したドキュメンタリー。少しずつ認知症が進んでいく母の姿を、娘である信友直子さんが一人称で語り、丁寧に描いていきます。テレビのドキュメンタリー番組として放映された映像が大反響を呼び、さらに取材を継続して映画化されました。
―― ご両親を撮影し始めたきっかけは?
信友直子さん(以下、敬称略) 2000年にボーナスで家庭用のビデオカメラを買ったからです。当時は家庭用のビデオカメラの性能が上がってきていました。「ドキュメンタリーは一般の人を撮るので、大きなカメラを持ったカメラマンや音声さんに囲まれるよりも、この小さいカメラで一人で撮影したほうが、本音が出るんじゃないか」と考えて、私も自分のカメラを買い、練習台として両親を撮り始めました。
両親は広島県呉市の実家に二人で住んでいるので、私が一人暮らしをしている東京から戻るお正月に撮影しました。基本的には年に1回ですが、30代後半の仕事に忙しいころですから、お正月も仕事が入ったら帰省せず、そのまま2~3年帰らなかったこともありましたね。
信友 撮られることを最初は母も父も恥ずかしがっていましたけど、私がカメラを回しながら「ただいま」って玄関の戸を開けることにだんだん慣れてきて。おかげで母と父の日常の自然な姿が映像に残せました。父が丁寧にいれたコーヒーを家族にふるまってくれたり、「お母さん、幸せですか?」って聞くと、にっこり笑って「はい、幸せです」って答えたりしてね。
親の日常生活を、見返して懐かしむ日がいずれ来る
信友 今はスマートフォンのおかげで動画を撮るのが本当に簡単になりましたけど、特別なイベントのときや、子どもの成長と違って、親の日常生活ってなかなか撮らないもの。でも、撮っておくと「台所はお母さんのお城だったよね」なんて、両親と一緒に、または自分の思い出として、懐かしく見返せる。ぜひお勧めしたいですね。
―― そんなふうに日常を撮っていたら、あるとき「あれ、お母さん、なんかヘン?」って気づくのが、映画の冒頭ですね。