ARIA世代のアンケートで、自分の健康やお金の次に気にかかっているのが「親の健康と介護」(38%)。仕事で忙しくしてきたARIA娘から、少しずつ老いゆく親へ、元気なうちだからこその「贈りもの」とは? 遺影にも使える記念写真の撮影とメイク、実家の片付けなど、親も娘も心に残るイベントや言葉をご紹介。

 久しぶりに会う親。優しくしたいのに、あれこれ世話を焼いてくるのをうっとうしく思ったり、食べ物を持たせてくれようとするのを嫌がってしまったり――。でも、「あのときこうしていれば……」と悔やむ日が来るかもしれません。信友直子さんはドキュメンタリー映画の監督。帰省するたびに撮ったご両親の日常を、「元気だった70代の頃の映像を残せてよかった」と振り返ります。その理由とは?

仕事の練習台として父母の日常を撮り始めた

 2018年の秋に公開された映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、年老いていく両親の姿を記録したドキュメンタリー。少しずつ認知症が進んでいく母の姿を、娘である信友直子さんが一人称で語り、丁寧に描いていきます。テレビのドキュメンタリー番組として放映された映像が大反響を呼び、さらに取材を継続して映画化されました。

―― ご両親を撮影し始めたきっかけは?

信友直子さん(以下、敬称略) 2000年にボーナスで家庭用のビデオカメラを買ったからです。当時は家庭用のビデオカメラの性能が上がってきていました。「ドキュメンタリーは一般の人を撮るので、大きなカメラを持ったカメラマンや音声さんに囲まれるよりも、この小さいカメラで一人で撮影したほうが、本音が出るんじゃないか」と考えて、私も自分のカメラを買い、練習台として両親を撮り始めました。

 両親は広島県呉市の実家に二人で住んでいるので、私が一人暮らしをしている東京から戻るお正月に撮影しました。基本的には年に1回ですが、30代後半の仕事に忙しいころですから、お正月も仕事が入ったら帰省せず、そのまま2~3年帰らなかったこともありましたね。

ドキュメンタリー監督の信友直子さん。片手に収まるサイズのカメラで両親を撮り続けた。
ドキュメンタリー監督の信友直子さん。片手に収まるサイズのカメラで両親を撮り続けた。

信友 撮られることを最初は母も父も恥ずかしがっていましたけど、私がカメラを回しながら「ただいま」って玄関の戸を開けることにだんだん慣れてきて。おかげで母と父の日常の自然な姿が映像に残せました。父が丁寧にいれたコーヒーを家族にふるまってくれたり、「お母さん、幸せですか?」って聞くと、にっこり笑って「はい、幸せです」って答えたりしてね。

撮影されることに慣れてきた母は、カメラを向けられても恥ずかしがらずに話すようになった
撮影されることに慣れてきた母は、カメラを向けられても恥ずかしがらずに話すようになった

親の日常生活を、見返して懐かしむ日がいずれ来る

信友 今はスマートフォンのおかげで動画を撮るのが本当に簡単になりましたけど、特別なイベントのときや、子どもの成長と違って、親の日常生活ってなかなか撮らないもの。でも、撮っておくと「台所はお母さんのお城だったよね」なんて、両親と一緒に、または自分の思い出として、懐かしく見返せる。ぜひお勧めしたいですね。

 
信友直子監督の母・文子さん(現在は90歳)と父・良則さん(現在は98歳)。娘が帰省するたびに日常を撮られるのが習慣になっていた。(C)「ぼけますから、よろしくお願いします。」製作・配給委員会
信友直子監督の母・文子さん(現在は90歳)と父・良則さん(現在は98歳)。娘が帰省するたびに日常を撮られるのが習慣になっていた。(C)「ぼけますから、よろしくお願いします。」製作・配給委員会
信友直子監督の母・文子さん(現在は90歳)と父・良則さん(現在は98歳)。娘が帰省するたびに日常を撮られるのが習慣になっていた。(C)「ぼけますから、よろしくお願いします。」製作・配給委員会

―― そんなふうに日常を撮っていたら、あるとき「あれ、お母さん、なんかヘン?」って気づくのが、映画の冒頭ですね。