信友 父は広島で開催されたこの映画の公開イベントに来てくれて、「信友直子の父でございます。わしはもう98で長うはないですが、娘の人生はこれからなので応援してやってください。わしは(耳が遠くて)聞こえないこともあるんですが、そういう時は近くに来て肩を叩いてもらったりすれば分かるので。わしはうれしいんですから」と挨拶してくれました。いい父だなあと思って、私も、客席の皆さんも泣きました。恥ずかしい姿を映画でさらけ出していいのかと迷うときもあったのですが、父はうれしかったんだなあと思ったら、私もすごくうれしかった。

 一方、母は脳梗塞になって、今は病院にいます。多発性だったので、病院に入ってから再発して、現在はしゃべることができなくなりました。残念なことに、母が最後にしゃべった言葉が何だったか、覚えていないんです。病院では口げんかをしたこともあるので、最後の会話が嫌なことじゃなければいいな、というのが今の思いです。

「『親孝行はいつでもできる』と思っていますが、できなくなる日が来るんです」

時間を戻せたら、と今でも後悔していること

信友 もう1つ、後悔していることがあって。「お父さんとお母さんが旅をして仲良くなり、お世話になっている人が沖縄にいるから、一緒に旅行しよう」とずっと誘われていたのに、仕事を理由に行かなかったんですよね。両親はいつでも都合が良かったんだから、私が「じゃあこの日に」って言えば良かっただけなのに。私が時間をつくらなかったから、いつでも行けるはずが、もう絶対に行けない、になってしまった。今、一番後悔していることです。時間は戻せない。皆さんには、同じ後悔はしてほしくないな、と思います。

取材・文/大屋奈緒子(日経ARIA編集部) 写真/洞澤佐智子

信友直子
ドキュメンタリー監督
信友直子 1961年生まれ。1984年東京大学文学部卒業。1986年から映像制作に携わり、フジテレビ「NONFIX」や「ザ・ノンフィクション」で数多くのドキュメンタリー番組を手掛ける。「NONFIX 青山世多加」で放送文化基金賞奨励賞、「ザ・ノンフィクション おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記」でニューヨークフェスティバル銀賞・ギャラクシー賞奨励賞を受賞。北朝鮮拉致問題・ひきこもり・若年認知症・ネットカフェ難民などの社会的なテーマを取り上げてきた。
映画 『ぼけますから、よろしくお願いします。』
■上映中(5月16日現在)
 イオンシネマ広島(広島県広島市)
 あつぎのえいがかんkiki(神奈川厚木市)
 延岡シネマ(宮崎県延岡市)
 シアタードーナツ・オキナワ(沖縄県沖縄市)
 ゆいロードシアター(沖縄県石垣市)
■近日公開予定
 フォーラム八戸(青森県八戸市)(5月17日~)
 小倉昭和館(福岡県北九州市)(5月25日~)
 高田世界館(新潟県上越市)(6月9日~)
 下高井戸シネマ(東京都世田谷区)(6月29日~)
 ガーデンズシネマ(鹿児島県鹿児島市)(6月29日~)
※詳細は映画公式HPでご確認ください