新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

 4年前、40歳で訪日外国人旅行者向けのアプリサービスなどを展開するスタートアップ、WAmazing(ワメイジング)を起業した加藤史子さん。急増する訪日外国人旅行者や、観光立国を目指す国家戦略にも後押しされ、順調に事業を成長させてきました。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症の影響で訪日外国人旅行者は一気にほぼゼロに。企業の存続を左右するほどの逆境にさらされています。さらに、大きな先行投資で急成長を目指すスタートアップのビジネススタイルは、中小企業を対象とする公的支援が届きにくいという逆風も。突然の大ピンチに遭遇した加藤さんはリーダーとしてどんな決断をし、どんな戦略をとっているのか、お話を伺いました。


加藤史子
WAmazing 代表取締役社長CEO
かとう・ふみこ/1976年生まれ。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、98年にリクルート(現、リクルートホールディングス)に入社。「じゃらんnet」、「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、主にネットの新規事業開発を担当後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」で「雪マジ!19」などフリーミアム事業を展開。2016年7月、「日本中を楽しみ尽くす、Amazingな人生に」をビジョンに訪日外国人旅行者向けプラットフォームビジネスを展開するWAmazingを創業

 WAmazingの2020年4月の売り上げ(取扱高)は、対1月比98%減でした。直前までの事業は好調そのもの。訪日観光客向けサービスのメニューも増やしたことで、昨年12月からは売り上げが急増し、創業から3年半を迎えた今年1月には過去最大の売り上げ実績を記録。これからさらに成長を加速させるぞ、という直後のコロナ禍の直撃でした。

やれることをすべてやろう

 振り返ると、1月23日に武漢市(中国・湖北省)が封鎖されたときには、まさか感染がここまで世界中に拡大し、私たちのビジネスが影響を受けるとは思っていませんでした。WAmazing利用者のうち中国本土からは2割程度。メーンは香港や台湾などからの旅行者ですから、当初はそこからの顧客は引き続き見込めると考えていたのです。

 しかし、武漢市の封鎖後すぐに予約のキャンセルが相次ぎ、2月に入る前にはこれは無傷ではいられないと覚悟しました。2月初めには日本でもクルーズ船での感染が明らかになり、水際対策が強化。訪日外国人旅行者数も激減しました。日本政府観光局によれば、訪日外国人旅行者数は前年同月比で2月は58.3%減、3月は93%減、4月に至っては99.9%減と、訪日外国人旅行者向けの事業に特化するWAmazingにとっては未曽有の大打撃です。

訪日外国人旅行者向けのアプリサービスなどを展開するWAmazing 代表取締役社長CEOの加藤史子さん。「2020年4月の売り上げ(取扱高)は、対1月比98%減でした」
訪日外国人旅行者向けのアプリサービスなどを展開するWAmazing 代表取締役社長CEOの加藤史子さん。「2020年4月の売り上げ(取扱高)は、対1月比98%減でした」

 こうした状況で、WAmazingでは企業の生き残りをかけ、2月初めには、「やれることをすべてやろう」と決断し、さまざまな手を打ち始めました。それが(1)コスト削減、(2)新規事業での売り上げの確保、(3)資金調達の3つです。この3本柱を同時並行でスピード感を高く保ちながら始めました。

 まず、コスト削減策として行ったのが、福利厚生の見直しなど不要不急の支出の削減です。さらに、2月には業務委託スタッフの契約延長をやめると決めて3月末で委託期間満了としたほか、この時点で、4月からの役員報酬の全カットも決定しました。続いて3月初旬にはサテライトオフィスを引き払い、全社員を本社勤務にしました。とはいえ、もともとオフィスが手狭になったためにサテライトオフィスを借りたので、105人の全社員が本社内で勤務するための工夫も必要でした。オフィスの座席にフリーアドレスを増やすとともに、スタッフを事業別の5チームに分け、各チームを週1回リモートワークにすることで就業スペース不足を解決しました。