新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

 『(上)テレビが語らないコロナの話 正しい情報は?』では、未知のウイルスを相手にどうするべきか考える際には、科学的に根拠のある情報を集めることがまず大事であると、日本総合研究所 主席研究員の藻谷浩介さんに伺いました。(下)では、一番恐れなくてはいけない問題が何であるのかを知り、緊急事態宣言が解除されたあとに何が起きるのか、何が大切なのかを考えます。(記事内容は2020年5月7日時点の情報に基づいています)。


藻谷浩介
日本総合研究所 主席研究員、日本政策投資銀行 地域企画部 特任顧問
藻谷浩介 もたに・こうすけ/1964年、山口県生まれ。88年東京大学法学部卒、同年日本開発銀行(現、日本政策投資銀行)入行。米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年ごろから地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。平成の大合併前の約3200市町村のすべて、海外114カ国を自費で訪問した経験を持つ。最新の監修本は『進化する里山資本主義』(ジャパンタイムズ出版)

恐れるべきは感染の拡大よりも地域ごとの医療崩壊

 では、日本が本当に心配しなくてはいけないことは何か。

 日本は人口当たりの病床数が世界一だということはご存じでしょうか。2017年の数字では166万ベッドで、その後削減が進みましたが、それでも150万以上あるといわれています。ですが、感染症対応病床は、20年以上前から急速に減っており、集中治療室(ICU)も足りない。病床数は少ないが集中治療室が多いドイツとは対照的です。その結果、コロナ感染者を受け入れているのは、全病床の1.5%、2万5000床だけ(※1)です。そのため医療崩壊が心配されて、結果、外出自粛などにより経済的に大きな犠牲を強いられているのです。

日本は人口当たりの病床数が世界一多いのに、感染症対応病床は減らしてきており、集中治療室(ICU)も足りないという(写真はイメージ)
日本は人口当たりの病床数が世界一多いのに、感染症対応病床は減らしてきており、集中治療室(ICU)も足りないという(写真はイメージ)

 日本では1990年代後半から、結核病床や感染症病床を大きく減らしてきました。それは感染症対策よりも、急増する高齢者などに対応するためです。それは避けられないこととしても、ただ、やっておくべきだったのは、感染症が突然発生するときのために、他の病床を感染症病床に切り替えられる備えだったと考えています。

 医療崩壊の恐れが現在どうなのかについては、「新型コロナウイルス対策ダッシュボード」(COVID-19 Japan)のサイト(※2)が一目で分かりやすいです。都道府県ごとに、新型コロナ対策の病床数がいくつあって、そのうち何%が入院患者で埋まっているかがリアルタイムで分かります。とても素晴らしいサイトです。

※1 2020年5月5日時点。5月21日時点では全国で3万1289床。出典はいずれも下の※2
※2 https://www.stopcovid19.jp/ 一般社団法人「コード・フォー・ジャパン」のメンバーでもある福野泰介さんらが立ち上げたウェブサイトで、厚生労働省などから配信されるデータを、使いやすい形に変換して誰でも使えるようにしたオープンデータ