新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、7都府県に緊急事態宣言が発令されてから約50日。一部の都道府県を除いては緊急事態宣言が解除されるなど収束に向かっていますが、油断はできない状況が続きます。未知のウイルスが相手なので仕方がないにしても、テレビのワイドショーやSNSなどではファクトを見ずに恐れ、騒いでいる面が強いと指摘するのは日本総合研究所 主席研究員の藻谷浩介さんです。2020年5月7日に開催されたオンラインセミナーを基に、新型コロナとどう対峙すべきか、そのためのファクトの見つけ方について、お話をまとめました。(記事内容は2020年5月7日時点の情報に基づいています)。


藻谷浩介
日本総合研究所 主席研究員、日本政策投資銀行 地域企画部 特任顧問
藻谷浩介 もたに・こうすけ/1964年、山口県生まれ。88年東京大学法学部卒、同年日本開発銀行(現、日本政策投資銀行)入行。米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年ごろから地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。平成の大合併前の約3200市町村のすべて、海外114カ国を自費で訪問した経験を持つ。最新の監修本は『進化する里山資本主義』(ジャパンタイムズ出版)

 新型コロナウイルスによる被害などが連日テレビやSNSなどで伝えられていますが、今起きているファクトを見ずに、大きく騒いでいる面が目立ちます。例えば、福島県から青森県までの死亡者は宮城県での1人だけ。東北は(最大の都市である)仙台も含めて恐る恐る活動を再開するでしょう。東京など感染がまだ落ち着いていない地域の人が東北に行かなければ、東北の中に限ってはかなり安全だといえるでしょう。

 今後、私たちはどんな情報を基に、これからの行動について判断をすべきなのか。今日はまず、そのことについて考えたいと思います。

「新型コロナウイルスによる被害などが連日テレビやSNSなどで伝えられていますが、今起きているファクトを見ずに、大きく騒いでいる面が目立ちます」
「新型コロナウイルスによる被害などが連日テレビやSNSなどで伝えられていますが、今起きているファクトを見ずに、大きく騒いでいる面が目立ちます」

新型コロナウイルスはどのくらい怖い感染症なのか?

 私たちにとって、未知のウイルスである新型コロナウイルスについて、大きな手掛かりを与えてくれるのは、ダイヤモンド・プリンセス号の船内での感染についてのファクトでしょう。これは全員に対して感染の有無をPCR検査した例なので、数字がはっきり分かります。

 まず、何が起きたのかを整理すると、換気が不十分で濃厚接触機会の多い客船という環境に、乗客・船員合わせて3711人が1カ月弱閉じ込められました。感染した人は712人(全体の19%)。これは非常に重要な数字です。さらに、感染した人がすべて発症するわけではなく、発症したのは381人。全体の10.2%、感染者の53.5%です。死亡した人は13人。全体の0.4%、感染者の1.8%です。

 これらの数字は、乗客の多くが高齢カップルで、しかも”3密”の多い環境での数字です。それでもこのくらいなのだ、ということをまず知っておきたい。各国で出ている死亡率の数字も、これに近いものになっています。シンガポールは0.1%と低いですが、高齢者などのかなり重篤な症状の人にも人工肺などで高度な治療をして、そのうち2割くらいが回復しているからだと言われています。未検査のまま無症状で治ってしまう、つまり表に出ていない感染者も含めれば、日本での感染者の死亡率は0.3%くらいになるのでは、と見ています。この0.3%という数字は、インフルエンザと大差がありません。

2009年の新型インフルエンザのこと、覚えている?

 記憶に新しい感染症としては、2009年の新型インフルエンザがあります。日本人1億3000万人のうち、何人が感染したかご存じですか? このときは、免疫が全くなかった子どもを中心に感染が拡大し、国立感染症研究所は患者数をカウントするのを途中でやめてしまいました。その後の研究結果によると、感染者は2000万人と推測されます。つまり、6人に1人がかかっており感染率は約16%。では死亡者数はというと、日本での死亡者は200人。死亡率は0.001%。世界では0.4%だったのに、です。世界に比べると、日本での死亡者はとても少なかった。清潔な生活や、非常に感染症を恐れる国民性が関係したのでは、と言われています。