新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

過小評価も過大評価もしない

 (上)では、未知の脅威に対抗するには、まず「相手を知ること」だとお話ししました。私自身もまた、会社を代表する経営者として、そして、お客様から資産を預かる投資信託の運用責任者として、まずは正しい情報認識に努めてきました。情報を把握しようとするときに、大事なのは「過小評価も過大評価もしない」という姿勢を保つこと。すなわち、事実以上に悲観もしなければ期待もしないということです。


藤野英人
レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者
ふじのひでと/1966年、富山県生まれ。早稲田大学法学部卒業後の1990年に野村投資顧問(当時)へ入社。ジャーディンフレミング投資顧問(当時)とゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2003年レオス・キャピタルワークス創業。一般社団法人投資信託協会理事。明治大学非常勤講師なども務める。最新刊は『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』 (日本経済新聞出版)

 余談になりますが、私の父はとても悲観的なタイプで、「いつも先回りしてネガティブな予測をするためにかえってタフになんでも受け止められる」という特性を備えた人でした。

 その父が5年前に病を患い、「俺はもうすぐ死ぬから、お前に伝えておきたいことがある」と急に私を呼びつけたことがありました(これも「最悪の想定」によるもので、父は今も健在です)。何事かと思って駆けつけて耳を傾けてみれば、「我が子ながらずっと感心していたことがある。お前はいつも『公平』だった」と言うのです。

 そんなことをわざわざ……と内心思いつつ、黙って聞いていると、「自分だけに有利になるように物事を運んだことは一度もなく、いつもフェアだった。常に社会の参加者の一員として公平に判断できることが、お前の最大の強みだ」と繰り返すのです。父とは昔、よく将棋を指していたので、その頃の振る舞いが頭にあったのかもしれません(※編集部注:藤野さんはアマチュア六段の腕前)。

(上)では「緊急時にどう動くのかで企業の価値感が見えてくる。特に欧州の企業には、政府任せにしない主体的なリーダーシップが感じられます」と話した藤野さん
(上)では「緊急時にどう動くのかで企業の価値感が見えてくる。特に欧州の企業には、政府任せにしない主体的なリーダーシップが感じられます」と話した藤野さん

 確かにファンドマネジャーとしてのキャリアを振り返ってみると、私が生かし続けてきた強みはその一点なのかもしれないなと感じました。ゴールドマン・サックスなど外資系投資顧問に勤めていた頃には、「査定では本人の自己評価と実際の評価に乖離(かいり)があることがほとんどだが、君はほぼ一致している」と上司から驚かれたことがありました。私はいつも「上司の目」になって自分自身を評価していたので、ギャップが生じなかったのでしょう。