新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

 「今回の危機は、業界の現状をリセットしてスローダウンする貴重な機会」。コロナ禍の今、ファッション業界の大御所、ジョルジオ・アルマーニのこんなメッセージが注目を集めました。ブランドや百貨店などの小売業界は今後、どう変わっていくのでしょうか。ファッション業界に30年以上関わってきたifs未来研究所所長の川島蓉子さんが考える「これからも業界が輝き続けるために必要なこと」。今回は(下)です。

百貨店の売り場を減らしてECに注力

 (上)では、半年を1サイクルとするファッション業界の構造が、転換せざるを得なくなるという話をお伝えしました。(下)では、業界全体で遅れていたデジタル化への移行と、そこでの「リアルな価値」について考えていきます。

 ファッション業界が、これから大きく舵(かじ)を切っていくのは、デジタル化です。新型コロナウイルス問題を契機に、大手アパレルが百貨店の売り場を半減してeコマース(EC)に舵を切る、百貨店やファッションビル、モールがECを強化するといったニュースが続いています。が、いずれもコロナ禍前から兆しとしてあったこと。百貨店の存在感が弱まってECが勢いを得ているのは、誰もが感じていたことだと思います。

ファッション業界が生き残りをかけて取り組むべきことは?
ファッション業界が生き残りをかけて取り組むべきことは?

「百貨店」という業態が曖昧に

 日本が高度経済成長を遂げて消費が成熟していく過程で、百貨店は大きな役割を果たしてきました。上質で豊かなライフスタイルを発信し、憧れやワクワク感を抱かせてくれたのです。それがいつの間にか、海外のラグジュアリーブランドをはじめ、国内アパレルのブランドが軒を連ねるブランドショップの集合体へと変わっていった。一方で、目利きのバイヤーが選んだセレクト売り場や、お客の目線に立って「これが欲しかった」を提案するオリジナル商品=PB(プライベートブランド)など、百貨店独自の場は、合理化や効率化を追求する過程で置き去りにされてしまった。結果的に、百貨店という業態の役割が曖昧になってしまったのです。

 ファッションビルも同様です。