新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

 「リーマン・ショックでどん底を見た」という人気投資信託「ひふみ」シリーズを運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長。コロナ・ショックによる株価暴落という危機に際しては、暴落前に現金比率を大幅に高めるという先手を打ち、一連のプロセスを顧客に随時共有したことが話題に。社員の在宅ワークも率先して進め、2020年4月末には社員1人当たり30万円の「在宅勤務支援金」を支給することを決めました。“事実の観察”と“感情の観察”で次々先手を打つ藤野さんに、「これから」をどう見るか聞きました。


藤野英人
レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者
ふじのひでと/1966年、富山県生まれ。早稲田大学法学部卒業後の1990年に野村投資顧問(当時)へ入社。ジャーディンフレミング投資顧問(当時)とゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2003年レオス・キャピタルワークス創業。一般社団法人投資信託協会理事。明治大学非常勤講師なども務める。最新刊は『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』 (日本経済新聞出版)

「見えない敵」をよく見て、よく知る

 金融の世界に身を置いて30年ほどがたちました。リーマン・ショックを含めて大小の荒波を経験し、その度に乗り越えてきた私にとっても、新型コロナウイルスという未知の感染症はこれまでにない脅威です。なんといっても、遡って参考になる例が100年前のスペイン風邪と言われていて、現代に生きる人類の経験値をほぼ生かすことができない難敵だからです。

 立ち向かうには、「敵をよく知ること」が第一ステップになります。

 私はこの「見えない敵」をできるだけ擬人化して客観視するために、「コビッドさん(covid-19に由来)」と呼んでいるのですが、知れば知るほど、コビッドさんは従来型の「マッチョなリーダーシップ」が全く効かない相手だということが分かってきました。

「未知の脅威に対抗するには、まず相手を知ること。私自身も経営者として、お客様から資産を預かる投資信託の運用責任者として、正しい情報認識に努めてきました」
「未知の脅威に対抗するには、まず相手を知ること。私自身も経営者として、お客様から資産を預かる投資信託の運用責任者として、正しい情報認識に努めてきました」

 まず、コビッドさんには脅しが効きません。「手をよく洗い、3密を避ける」という約束を守らなければ、容赦なく襲いかかってきます。襲う相手の選別に忖度(そんたく)は一切なく、どんなに地位がある人でも関係なく侵入してきます。トランプさんが得意だった買収やTwitterでの扇動もまったく歯が立たないのです。

 権力や社会のルールを一切無視して、誰に対しても等しくフラットに入り込んでくる。それがコビッドさんです。

 そこで大事になるリーダーシップとは何か。私は「情報共有と連帯」だと思います。つまり、みんなで正しい情報を伝え合い、みんなでつながっていくことです。