新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

 経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、42の施設を運営する旅行業界の革命児、星野佳路さん。新型コロナウイルスの影響で観光地では自粛が続き、宿泊客のキャンセルも相次ぐ今、大打撃を受ける旅行業界の再生策を聞きました。

星野佳路
星野リゾート代表
ほしの・よしはる/1960年、長野県生まれ。83年、慶応義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。91年に先代の後を継いで星野温泉旅館(現・星野リゾート)代表に就任。所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。現在「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」など国内外42施設を運営する。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、観光需要が大きく落ち込んでいます。平時に比べて4分の1程度になっています。長期戦になると見越して、どうやって経営していくのか、計画を立てているところです。現在、星野リゾートには42の施設がありますが、緊急事態宣言下で東京の2施設は休館。本社機能もテレワーク化していますので、首都圏だけで9割くらいの接触の削減にはなっていると思います。

治療薬ができるまで観光需要は戻らない

 東京を除く施設の稼働率は地域によって差はありますが、通常に比べて平均3~4割ほど下がっています。首都圏、関西圏からの需要はほぼゼロ。緊急事態宣言が緩和されると2~3割減ほどになるとは思いますが、ただ第2波が来たら再び自粛期に入るわけで、しばらくは自粛と緩和を繰り返すと思います。治療薬とワクチンができるまでの間、1年先か1年半先になるかは分かりませんが、それまでは観光需要が元の状態に戻ることはないでしょう。

 世界の旅行市場は、一旦ものすごく縮小し、経済の回復と共に今までと同じレベルに戻ると予測しています。市場の成長をこれまでけん引してきたのは、新興国の中流階級。今は経済がかなり傷んでいますのでV字回復は望めません。一方で、市場のポテンシャルは今までと変わらないので、徐々に回復するでしょう。

 日本に限ると、観光需要の80%は実は日本人による国内観光です。インバウンド(訪日外国人旅行)の回復は、治療薬やワクチンの開発後でしょうが、それまでに日本人向けの国内観光のサービスを進化させていきたいと考えています。

「治療薬ができるまで観光需要は戻らない」と予測する星野リゾート代表の星野佳路さん。経営破綻したリゾートや温泉旅館の再生に取り組み、旅行業界の革命児と呼ばれる
「治療薬ができるまで観光需要は戻らない」と予測する星野リゾート代表の星野佳路さん。経営破綻したリゾートや温泉旅館の再生に取り組み、旅行業界の革命児と呼ばれる