新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

 「多くの人がリモートワークを余儀なくされている今の状況は、日本が生産性の高い社会に変わる機会になるのでは」。こう話すのは、ソフトウエアの受託開発を行うソニックガーデン代表取締役社長の倉貫義人さんです。同社は創業当時からリモートワークを導入し、2016年にはオフィスを撤廃。全国に散らばる社員約40人全員が在宅で仕事をしています。リモートワークをスムーズに実践するポイントや、リモートワークを通して見えてくる仕事の本質などを、Zoomを使った取材で倉貫さんに聞きました。

(1)テレワークで問われる 普段からのチームビルディング ←今回はココ
(2)「テレワークでマネジメントできない」はマネジャー失格
(3)テレワークの達人が日経ARIA読者の悩みに回答


倉貫義人
ソニックガーデン代表取締役社長
くらぬき・よしひと/1974年京都生まれ。1999年に立命館大学大学院を修了し、TIS(旧・東洋情報システム)に入社。2009年に社内ベンチャーを立ち上げ、2011年にMBOを行ってソニックガーデンを設立する。月額定額&成果契約で顧問サービスを提供する「納品のない受託開発」を展開。全社員リモートワーク、オフィスの撤廃、管理のない会社経営など新しい取り組みも行っている。著書に『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』『管理ゼロで成果はあがる』『リモートチームでうまくいく』など。

「チームらしく働けている」組織とはどんな状態か

―― 新型コロナウイルスの影響で、社会全体に「仕事はできるだけ在宅勤務に切り替えて」と大号令がかけられています。普段から全社員がリモートワークのソニックガーデンは、特に今までと変わりなく仕事をされているのでしょうか。

倉貫義人さん(以下、敬称略) そうですね。業務のオペレーション上は現在も全く支障がない状態ですし、お客さんとも普段からビデオ会議で仕事をさせてもらっているので、特に問題はありません。ただ、緊急事態宣言が出されて子どもを保育園や小学校に預けられなくなり、家の中がにぎやかで仕事に集中しづらくなったという社員はいますね。ビデオ会議に子どもが映り込んできたりすること自体は、以前からよくある風景です。

―― 全社員がリモートワークと聞いたとき、各自が個人事業主的にドライな関係で働いているのかなと想像しました。ところが倉貫さんはチームで働くこと、チームビルディングこそリモートワークには欠かせないと著書などで語っていて、少し意外でした。

倉貫 「自立できるかどうか」と「チームでいること」は相反するものではなく、共存できるんですね。自立できるからといって皆さん個人主義でやっていきましょうというのは、ディストピアというか、つらい社会だなと思っていて。

 人間誰しも得意不得意はあるものですが、フリーランスや個人事業主になると、不得意なことも全部自分でやる必要があります。プログラミングの腕が非常にあるけれども営業が苦手という人がフリーランスになったら、営業もしなくてはいけない。得意なことを生かして仕事ができるのが幸せな状態だとするならば、チームを組んだほうがより成果が出しやすいのではないか。むしろ個性を生かすためにチームで働くのだと僕は考えています。そして、リモートで働くことはチームの阻害要因にはなりません。

―― 今回、日経ARIAでは読者を対象にリモートワークについてのアンケートを実施したのですが、準備期間もなくいきなり実践することになったリモートワークに対する戸惑いや不安の声がたくさん寄せられています。特に、チームで仕事をしづらくなるのではと考える人が多いようでした。

倉貫 リモートワークをするにあたって、「どんな状態がチームらしく働けているのか」ということを、まず本質的に考えてみる必要があると思います。

ソニックガーデンの倉貫義人さん。「個人の強みを生かすためには、チームで働いたほうが成果を出しやすいと思います」
ソニックガーデンの倉貫義人さん。「個人の強みを生かすためには、チームで働いたほうが成果を出しやすいと思います」