新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

 家に閉じこもらざるを得ないこの時期こそ、じっくりと本と向き合い思考力や人間力を高める読書を。1万冊以上の本を読破し、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務める知の巨人、出口治明さんに「この時期だからこそ読んでおきたい5冊」を教えてもらいました。2冊を紹介した(上)に続き、(下)では、3冊を紹介します。


出口治明
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
でぐち・はるあき/1948年、三重県生まれ。72年、京都大学法学部卒業後、日本生命保険入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。08年、還暦でライフネット生命を開業。12年、上場。10年間社長、会長を務めた後、18年1月から立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。著書に『人類5000年史Ⅰ~Ⅲ』(ちくま新書)など。

グローバリゼーションに初めて対峙した日本

 家で過ごす時間がたっぷりあるゴールデンウイークは読み応えのある本とじっくり向き合ういい機会です。普段はなかなか手に取れない読み応えのある本をお薦めします。

APU学長を務める出口治明さん。世界史にも造詣が深い
APU学長を務める出口治明さん。世界史にも造詣が深い

 「人間力を高める本」としてお薦めなのが『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり著)です。パンデミックはある意味、グローバリゼーションによるダークサイドです。16世紀、宣教師たちによってヨーロッパに派遣された天正少年使節の軌跡を追った同書は、日本が初めてグローバリゼーションと対峙(たいじ)したときの物語です。大航海時代、迫りくるグローバリゼーションの波に日本人はどう立ち向かったのでしょうか。

 読んでみると、物語の面白さだけでなく、今の日本や世界の状況について、さまざまなことを考えさせられます。何よりも当時の日本人の素晴らしさ、世界の変化に対応する能力の高さがよく分かります。そして、国を閉じる「鎖国」という方向に進むと、どんな不幸が起こるのか。英語に翻訳されたら世界中でベストセラーになるであろう名著です。

若桑みどり著『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国(上・下)』(集英社文庫刊)。16世紀、布教のために日本を訪れた宣教師たちによってヨーロッパに派遣された天正少年使節。4人の少年の軌跡を通して、戦国末期の日本と帝国化する世界との出合いを描く。 西洋美術史家である著者が東西の史料を駆使し、当時の情景を詳細につづった傑作
若桑みどり著『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国(上・下)』(集英社文庫刊)。16世紀、布教のために日本を訪れた宣教師たちによってヨーロッパに派遣された天正少年使節。4人の少年の軌跡を通して、戦国末期の日本と帝国化する世界との出合いを描く。 西洋美術史家である著者が東西の史料を駆使し、当時の情景を詳細につづった傑作