新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国を対象に緊急事態宣言が出され、世界でも先進国を筆頭に人的、経済的、社会的に大きな犠牲がもたらされています。働き手として経済を支えていくべき私たちは、今後、どんな働き方・生き方をしていけばいいのでしょうか。現在を正確に知ってより良い将来につなげるために、各界のリーダーに取材した声を緊急特集でお届けします。

 1万冊以上の本を読破し、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務める知の巨人、出口治明さん。先の見えない状況に不安感や閉塞感を抱えやすい今、私たちはこの危機をどう受け止めればいいのかを聞きました。


出口治明
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
でぐち・はるあき/1948年、三重県生まれ。72年、京都大学法学部卒業後、日本生命保険入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。08年、還暦でライフネット生命を開業。12年、上場。10年間社長、会長を務めた後、18年1月から立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。著書に『人類5000年史Ⅰ~Ⅲ』(ちくま新書)など。

今できるのは被害を最小限にとどめること

 パンデミックと聞いて、皆さんが連想されるのはペストではないでしょうか。14世紀にユーラシア全体で大流行し、イタリアでも大勢の死者が出たペストはその後、何を生んだのか。イタリアを発祥として全ヨーロッパに広がったルネサンスを生みました。ルネサンスはフランス語で「再生」を意味し、人間性の自由・解放を求めた文化運動です。

 パンデミックは自然現象です。われわれホモ・サピエンスはたかだか20万年しか生きていませんが、ウイルスは数十億年生存しているので、比較になりません。でも、パンデミックの特徴は「必ず終わる」こと。永遠には続きません。だから今、われわれ人類ができることは、みんながよく考えて被害を最小限にとどめること。それしかありません。

 では、どういう世界が新型コロナウイルス流行の後に生まれるのでしょうか。2月27日に政府は突然、全国すべての小中高校と特別支援学校について3月2日から休校にするよう要請しました。僕が学長を務めるAPUでは、ニュースが伝えられてから2日後に教職員らの子連れ出勤を可能にしました。3月は卒業認定や入学認定など、1年で一番仕事が立て込む時期ですからね。それから1カ月以上たちますが、子連れ出勤による仕事上の問題は何も生じていません。

「パンデミックの特徴は必ず終わることです」と話す立命館アジア太平洋大学(APU)学長、出口治明さん。世界1200都市を訪れ、歴史にも造詣が深い
「パンデミックの特徴は必ず終わることです」と話す立命館アジア太平洋大学(APU)学長、出口治明さん。世界1200都市を訪れ、歴史にも造詣が深い

 もちろんテレワークも進めています。(人と人との距離を保つ)ソーシャル・ディスタンシングを取り入れて、会議室や倉庫もオフィスとして使用しています。当面大学の授業は100%オンラインにすると決めました。

ペストの後にルネサンスが生まれたように、パンデミックの後には必ず新しい世界が広がります。それが人間の歴史です。