新型コロナウイルスのパンデミックという100年に1度の危機に直面し、「今こそ誰かの力になりたい」「何か自分にできることをしたい」という思いがわき起こった人も多いでしょう。1歩を踏み出した人たちのケースから、忙しくても無理のない範囲でできる「社会活動」について考えます。誰かのためにと思ったことが、実は自分に大きな何かをもたらして人生を豊かにしてくれます。

 出産を機に子育てや弱者に理解のない社会に疑問を抱くようになったという小島慶子さんと、親の経済力の差が子どもに影響する社会を変えたいと、無料の学習支援などを行うNPO法人キッズドアを立ち上げた渡辺由美子理事長。対談の後編では、NPOとしての活動を持続的なものにするために必要な「覚悟」や、ビジネスの世界でキャリアを積んだARIA世代ならではのソーシャルセクターとの関わり方について聞きました。

「まずは人を一人雇えるようになりなさい」

―― 渡辺さんが2009年に設立したNPO法人キッズドアは今年で11年目を迎えました。現在は、どれくらいの方々が活動に関わっているのでしょうか。

渡辺由美子さん(以下、敬称略) 専従職員としてキッズドアの月給だけで生活している人が40人ほど。学習支援などに携わるボランティアさんは東京と東北の拠点を合わせて1200人以上いて、全体では1500人くらいの方たちが関わってくださっています。

―― 一人で始めた活動が、なぜここまで継続できて、かつ規模を広げていくことができたと思いますか。

渡辺 最初に始めたときは、夫が稼いでいるし、無給でもいいから自分ができることをやろうと思っていたんですね。でもやり始めてすぐに、これは課題がすごく大きいから長く続けなくちゃいけない、そのために無給でやるのは絶対にだめだなと思ったんです。

小島慶子さん(以下、敬称略) うんうん。

渡辺 ボランティアで私生活を犠牲にする、みたいな形では絶対続かないんですよね。NPOという法人格を取ったのも、収入を得られるように活動の形を変えようと考えたからです。助成金をもらったり、寄付を集めたりして、自分にも雇った人にもお給料をちゃんと出すようにしていこうと。それがよかったんだと思います。

 NPOを立ち上げたとき、何も分からなかったので、ソーシャルビジネスの立ち上げをサポートしているNPO法人ETIC.(エティック)のプログラムに入れてもらったんですね。そこで言われたのが、とにかく人を一人雇えるようになりなさいということ。「専従の人を一人雇って日中も連絡が取れるようにする。自宅兼事務所ではなく、団体として事務所が構えられるようになる。まずはそこを目指しなさい」と。具体的でとても良いアドバイスでした。

 ボランティア活動の一歩先に進んで組織の基盤をしっかり作り、事業として成立させることは重要かなと思います。

小島 私は社会活動に携わる友人たちとのネットワークが広がるにつれ、日本はソーシャルセクターに対して間違ったイメージがあるということを感じるようになりました。清く正しく、貧しさをいとわず人に尽くすべきだ、という。それではサステナブルではないでしょう。活動を持続させるには、働いている人たちがちゃんと生活できるように、お金が回るようにすることが大事ですよね。

小島慶子<br>エッセイスト/タレント<br>1972年オーストラリア生まれ。95年学習院大学卒業後、TBS入社。アナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演。99年、第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞受賞。2010年に独立後は各メディア出演、講演、執筆など幅広く活動。14年、オーストラリア・パースに教育移住。連載、著書多数。東京大学大学院情報学環客員研究員、昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員。19年、NPO法人キッズドアアドバイザーに就任
小島慶子
エッセイスト/タレント
1972年オーストラリア生まれ。95年学習院大学卒業後、TBS入社。アナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演。99年、第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞受賞。2010年に独立後は各メディア出演、講演、執筆など幅広く活動。14年、オーストラリア・パースに教育移住。連載、著書多数。東京大学大学院情報学環客員研究員、昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員。19年、NPO法人キッズドアアドバイザーに就任