あなたの周りには「女性の部長」がどれくらいいますか?コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂により、上場企業には「多様性確保」が求められるようになりましたが、多くの企業は、部長以上の女性比率が著しく低いのが現状です。とはいえ、ARIA世代にはゆくゆくは…と部長への就任が視野に入っている人もいるはずです。課長や係長時代にはなかった重圧や恐怖、どんな壁が立ちはだかったか、そしてどう乗り越えたのか…先輩たちに聞きました。

 宮野安理さんの日本HPでのキャリアは派遣社員からスタート。正社員登用後、リーダー職を経て入社5年目となる2019年に営業部門の本部長に昇進した。現在、社内公募で手を挙げた未経験分野の部長職として、さらなる高みを目指す。過労による休職やマネジメントの失敗など数々の挫折を味わい、乗り越えてきた経験から「部長の壁」の突破法を聞いた。

宮野安理<br>日本HP デジタルプレス事業本部セールスオペレーション本部本部長
宮野安理
日本HP デジタルプレス事業本部セールスオペレーション本部本部長
高校3年間をカナダで過ごし帰国。ザ・キャピトルホテル東急、ザ・リッツ・カールトン東京を経て、2010年日本HP(当時は日本ヒューレット・パッカード)に派遣社員として勤務。2014年正社員となり、2016年Eコマース事業本部のリーダー職に昇進。2018年9月に社内の女性活躍促進団体「Women's Impact Network Japan」を立ち上げる。2019年6月Eコマース事業本部リテールビジネス本部本部長に就任。社内公募に手を挙げ、2021年10月から現職。

営業成績は達成したのに、部長になって初めての社内評価は「最悪」

編集部(以下、略) ラグジュアリーホテルから日本HPに転職。現在の本部長となるまで、一気にキャリアの階段を駆け上がっていますね。

宮野安理さん(以下、宮野) ありがとうございます、でも実際は山あり谷ありで……。ホテルの仕事はやりがいがありましたが、立ち仕事による腰痛の悪化や家庭の事情も重なって、「長くは続けられないな」と感じたんです。それで、家庭と両立しやすい定時退社ができる働き方を選びました。日本HPは世界170カ国展開のグローバル企業。未知の分野にチャレンジができ、多様性を重視する文化が魅力的でしたね。

―― 派遣社員として働きながら力を発揮していく中で、リモートワークなどの柔軟な働き方が可能になり、その後正社員登用されました。

宮野 当時の上司は組織の多様性や多様な働き方を推進しており、「成果で評価をする会社だから、正社員になれば効率よく短時間で結果を出していくことで今よりも柔軟な働き方ができるようになるよ」と後押ししてくれたのがきっかけです。

―― 入社2年目でウェブ販売を行うEコマース事業本部でチームリーダーを務めた後、営業部3チームと企画部門、戦略部門を束ねる同事業本部の本部長に抜てきされました。部長昇進の話を聞いたときの感想は?

宮野 戸惑いが20%、残りの80%はうれしかったですね。というのも、ちょうど上級管理職を目指す心の準備ができていたタイミングだったからです。

 実は、私は部長職になる前の役職で仕事を優先するがあまり体調を崩し、3カ月間会社を休職したことがあります。休職中は、「もう私のキャリアは終わった」と上を目指すことを諦めかけたときも……。

 量をこなして成果を上げるという自分の働き方を変えなければこれ以上のキャリアアップは望めない。復職後に働き方を見直して、社内で女性活躍促進団体を立ち上げました。優先順位をつけながらワーク・ライフ・バランスを大切にする外資系マネージャーなど、多様な働き方で活躍する多くの女性に出会ったことで、「もっとチャレンジしたい」「自分なりのやり方でキャリアを築けばいい」とマインドセットができました。

―― 実際に部長となり、大きな挫折経験もあったそうですね。

宮野 部長になって早々に、マネジメントの壁に直面しました。日本HPでは全社員に向けて行われる年に1度の「社員エンゲージメント調査」があるのですが、数値上ダイレクトに悪い結果が出たんです。業務上の数値目標は達成できていたので、自分がそこまでの低スコアではないと思っていて。結果の資料を何度も開け閉めして見返すほどショックでしたね。

―― 低評価の原因はどこにあったのでしょう?