企業の管理職、チームリーダーとして、組織を統率する立場にあるARIA世代。20代の新入社員から定年間近の50代まで、さまざまな価値観のメンバーを束ねなければならないばかりか、時に自らもプレーイングマネジャーとして動かなければならず、日々悪戦苦闘している人も多いでしょう。しかし、完璧なリーダーが、強いチームをつくるわけではありません。どのようなリーダーが今、求められているのか? 部下とのコミュニケーションはどうすればいいのか? アンケート調査や成功事例から、令和時代のリーダーシップと最強チームのつくり方を探ります。

 2013年、36歳で楽天の執行役員に女性最年少で就任した河野奈保さん。26歳のときに楽天に転職して以来、楽天市場事業で営業、マーケティング、編成を担当し、30歳という若さでモバイル事業の責任者に就きました。現在はCMO(チーフマーケティングオフィサー)を務める河野さんですが、「現場への未練を捨てるのが本当に難しかった」とリーダーになりたてのころの自分を振り返ります。三木谷浩史社長という日本屈指のリーダーのもとで、河野さんはどのように組織を率いているのでしょうか。今は常務という立場にある河野さん流のリーダー術、まずは前編をお届けします。

河野奈保(こうの・なほ)楽天常務執行役員CMO
河野奈保(こうの・なほ)楽天常務執行役員CMO
1976年生まれ。人材派遣会社、ネット証券を経て2003年に楽天へ入社。2005年にモバイル事業の責任者、2013年に執行役員就任(女性最年少)。2017年常務執行役員、2019年にCMO(チーフマーケティングオフィサー)に就任。同年に産休を取得した

捨てられなかった「現場への未練」

―― 河野さんが、リーダーとして初めて壁にぶつかったのはいつですか? それはどんな壁でしたか?

河野奈保さん(以下、敬称略) 私にとって一番大きな障壁は「プレーヤーとしてもっとやりたいのに……」という現場への未練でした。楽天市場事業を担当していた28歳、副部長になったときのことです。マネジャーという立場で人に仕事を託さなければならないのに、その未練が邪魔をして。振り返れば、30歳を過ぎるまではプレーヤーとマネジャーとのどっちつかずだったと思います。

 今でもすごく印象に残っている言葉があるんです。当時の上司に「あなたはタイプ的に5人、10人の組織をまとめることはできるけど、50人、100人の組織をまとめることはできないね」という言葉。そのときはなぜそう言われたのか全く理由が分からなくて。自分についてきてくれる若手がいるんだから、部下の数が増えても同じようにできるはず。チームでしっかり成果を残しているという自負もあったので、逆に上司が分かってないなあ、と。現場を知っているのは私であって、上の人は全く見ることができていないんだなと思っていました。

―― 今は、その発言の真意が分かるようになったんですか?

河野 頭で理解しようとして分かったわけではなく、リーダーとしていろいろなことを経験して「結果的に分かった」という感じです。私はずっと現場への思いを引きずっていて。誰かに仕事を託すとか、部下の報告をじっと待つとか、そういうことがなかなかできませんでした。部下が5人や10人のときは、プレーイングマネジャーとして一緒に走ることもできました。でも、私が見る組織がどんどん大きくなり、与えられる役割も変わってきて。30歳でモバイル事業を担当する部長になり、150人ほどの部下を抱えることになって初めて、「このままのやり方では全部を見渡すことはできない」という事態に陥ったんです。上司の発言の意味に、やっと気付きました。