人生のちょうど折り返し地点に立つARIA世代。仕事への責任感や周囲への義務感にとらわれ、「自分の幸せ」を後回しにしていませんか? 人生100年時代を前向きに生き抜くためには、このへんで自分の幸福度を上げるシフトチェンジが必要かも。自分の「好き」を追いかけて、人生を転換させた7人のケースから、ARIA世代の「幸福論」を考えます。

 複雑化した現代社会において、私たちが目指すべき幸福な生き方とは――。そんな問いに対する1つの指針を提示するのが、1990年代後半にアメリカで誕生した新しい学問、ポジティブ心理学です。一般社団法人日本ポジティブ心理学協会代表理事の宇野カオリさんに、科学的な研究に基づく「よりよい生き方」や「幸福度の高い状態」について解説してもらいました。

現代人には「危機回避脳」に代わる生き方の指標が必要

 大規模な自然災害や未曽有のコロナ禍など、ますます先の見通せない時代になる中、ポジティブ心理学という言葉を最近よく耳にするようになりました。従来の心理学は、主にメンタルの不調や精神疾患を抱えた、いわゆる集中的なケアや治療が必要な人を対象としています。一方、ポジティブ心理学は、世の中の大半を占める、特段の支障なく日常生活を送っている人たちが「よりよく生きること」とは何かを追求する学問。その重要性は、進化論から入るとよく分かると宇野さんは言います。

 「人類の歴史を振り返れば、かつては生存自体が難しく、常に肉体的な脅威にさらされながら生き抜く状況が何万年と続きました。そうした中で人の脳は、自身の生存や繁殖を脅かす要因を回避するように進化してきました。

 長きにわたって『肉体的な危機回避』が最優先事項だったために、その必要がなくなった今でも『危機回避』の脳内システムは強く残っています。でも、少なくとも今日の先進国にあって、安全な環境で生きることが権利として保障され、衣食住が満たされている人々に必要なのは、危機回避とは異なる、よりよい生き方への新たな指標。そのようなニーズに応えるのがポジティブ心理学です」

 太古の人類が「かろうじて生きている状態(survive)」だったとすると、現代人の大多数は「可もなく不可もなく生きている状態(live)」。そこから目指すべきは「最高最善に生きている状態(thrive)」であるとして、ポジティブ心理学では、「個人や社会が活力に満ち、最高最善の状態で機能するときの条件ならびにプロセスについての科学的な研究」が行われています。

 ポジティブ心理学の研究テーマは、大きく分けて次の3つに分類されるといいます。